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2026/01/02

生活世界に射す影に対して: 韓国での旧統一教会捜査と日本政治の関係を整理する Against the shadows creeping into our life-world: examining the connection between the investigation into the former Unification Church in South Korea and Japanese politics

 

 

 

 



1. はじめに

 

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。写真は、私の家から少し離れたところを流れる川と傍らの道を2014年夏に写したものです。この時は、益子町の風土性に関した調査の中で訪れていました。2019年秋からここに移り住み、特に町内で生まれた子犬を昨年4月に迎えてからは、事務所へ行かず家で仕事をし、強く雨が降る日を除いて犬と写真の川べりを中心に散歩に出ています。この間、自治会の役を務めて地区のさまざまな方々と知り合い、いくつかの行事の行程に参加し、犬と散歩に出るようになってからは犬連れの方をはじめ道ですれ違う方々との関係ができました。同じ地区に暮らす方々を知り、さまざまな場所を犬と歩き、田畑を世話する方々の日々の仕事を目にする中で、地区に対する愛着が湧いてきました。そうなると、2014年夏には見えなかったものや見え、感じられなかった趣が感じられるようになった思いがしています。このことは、今後自分の地理、風土、景観研究の課題としていくとよいのかもしれません。それもありますが、その前に、ここに暮らす私たちの大切な生活世界とそこでの日常を守りたいという気持ちが強まっているのを感じます。

 

1. 韓国での旧統一教会捜査から判明した重大事件


 この年末から年始にかけて、日本の政治にもかかわる重大事件が韓国で報じられ、日本にも伝えられています。「以前であれば政権が吹っ飛んだ」と、ここ10年ほどでいわれるようになったくらいの事件ではないでしょうか。ただ、なぜ、いつから「政権が吹っ飛んだ」と過去形でいわれるような状況になったかも疑問です。そういって済ませてしまうだけでは状況が変わりませんし、無責任と思いますので、少しだけ情報の整理を試みてみることにします。

 2025、韓国のハンギョレ新聞と聯合ニュースは、世界平和統一家庭連合 (旧統一教会) の内部文書の内容を報じ、日本の報道機関がこのことを伝えています。

 旧統一教会は、1954年に韓国で文鮮明が設立した宗教団体です。この後、1957年から1958年にかけて、文鮮明から日本宣教を命じられた崔奉春が、4度目の密航で日本に入国しています。1963年には、日本の統一教会が本部を岸信介 (自由民主党初代幹事長。第5657代内閣総理大臣。別人格ではあるが、安倍晋三元首相の祖父に当たることを付しておく) 元私邸隣に移し、崔奉春が1964年に入国管理法違反で警察に拘留された際は、笹川良一 (第二次世界大戦を挟み右翼団体総裁、衆議院議員、財団法人日本船舶振興会会長を歴任) の働きで釈放されているとのことです1)

 

 旧統一教会は、文部科学省の請求2) を受けた東京地裁が、「高額献金を強いられ家族が崩壊した。霊感商法によって困窮を余儀なくされた」(2025325日付決定文より) 等の理由から解散命令を出した (現在、上告中) 宗教団体 (宗教法人) です3)


 旧統一教会は、本部のある韓国へ世界の信者を集めて合同結婚式を開いています。その主な資金源は韓国ではなく日本で、1980年代の泡沫経済期には日本支部が毎月100億円を韓国本部へ送金されていたとのことです。米国ノースカロライナ州立大学のレビ・マクローリン教授によれば、日本人の信者には植民地時代の過去の「清算」も求められていたそうです4) 。同教会の教義では、文鮮明はメシアの再来であり、メシアが生まれた韓国がアダム国家であるのに対して韓国を蹂躙した日本はエバ国家であるとし、日本人女性信者は渡韓して多くが未信者の韓国人男性に嫁ぎ、「侍る (服従する) 信仰を要請された」といいます。その数は、1988 (6500組が結婚) 1992 (30000) 1995 (360000) 3回で、約7000人に達しています5)


 安倍晋三元首相 (90969798代内閣総理大臣) の銃撃事件後、自民党議員らが旧統一教会から選挙で票集めなどの支援を受けていたことが明らかにされました。自民党は、会合出席や選挙の協力受け入れなどで教団と何らかの接点があった議員が計180人いたと公表していました6) 。しかし、韓国の特別検察による捜査の結果から、旧統一教会と自民党の癒着の程度はさらに強固であったことが判明してきています。

 韓国では、旧統一教会による選挙での不正への関与に関した捜査が続けられています。20251230日には、同国警察が、与野党の国会議員への違法な政治資金提供の事実を確認したと発表しました7)

 この捜査の中で押収した文書に、統一教会による第二次安倍政権以降の自民党に対する工作に関した報告書が含まれていたことを、同国のハンギョレ新聞と聯合ニュースが報じています8)

 ハンギョレ新聞は、この報告書に「 (安倍首相は) それ (選挙支援) について非常に喜んで安心しているようだった」「我々が応援した国会議員の総数は、自民党だけで290人に達する」と記されていると伝えています。「高市早苗現首相の名前も32回登場する」とのことです。ただし、報告書には高市首相の出身地について誤記され、同記事ではこの点を指摘してもいます9)

 こうした韓国メディアの報道を受けて、日本のメディアもこれらのことを少しずつ報じている状況であるようです。その中でも、NHKは、「ハンギョレ新聞が伝えたものと同様の内容を取材で確認しました」として、報道を行っています10)

 

3. 私の考え

 

 このように、裁判で解散命令が出された、異常性をもつ、他国に本部のある宗教団体が自民党の政治家らに選挙運動員や私設秘書を派遣し、組織的に集票するなど、日本の政治の中枢に入り込んでいました。私は、解散命令を出したからそれで済んだとは思いません。韓日で捜査を協力し、押収された文書の日本語訳と公開を行い、自民党の内部調査 (自己申告に基づく) ではなく第三者機関を設置しての調査を、同文書に名前が挙げられた高市首相をはじめとする全国会議員に対して実施することを求めます。


4.
なぜ拙ブログにこの記事を載せるのか

 

 自分たちの大切な生きる世界、日常に影が射す時、何らかそれに対処しようとすることは自然だと思います。逆に、達観したつもりで隠遁しようとしても、上記のような問題を結果的に容認し、放置していれば、次第に社会規範は乱れ、政治もさらに乱れ、その影響は私たち一人ひとりに及ぶはずです。こうした社会構造上の問題の解決は困難ですが、視野には入れておき、研究や生業とするデザインによって間接的にでも解決に向けた動きが起せそうであればそれをし、そのような可能性が皆無であれば社会運動に参加するなどして、社会形成の主体としての責任から逃れずにいたいと考えます。

 誇張なく、一大事だと思いましたので、202611日と2日と、2日間を費やして、第一に自分が統一教会と自由民主党の癒着の問題を理解するために、この記事を執筆しました。

 

5. おわりに


 おわりに、私のように知識をもたない者にもこうして確かな情報へのアクセスを可能にしてくださっている韓日両国の報道機関やジャーナリスト、研究者の方々と全国統一教会被害者家族の会11) 、旧統一教会による被害の予防、救済および根絶を図る目的で結成された全国統一教会被害対策弁護団12) に、謝意を表します。


 

 

 

 以下、引用した文献の出典を記しました。専門外の私が、どの文献を主に何の目的で参照したか忘れずにいるために執筆中付けた見出しを残しています。引用をせず、参考とした文献についても記載しました。

 

【旧統一教会の概要等】
1)
櫻井義秀. 2024. 日本における統一教会問題とは何か社会規範構築の主体は誰か. 宗教研究 98 (2): p. 29-54 DOI https://doi.org/10.20716/rsjars.98.2_29


【旧統一教会への解散命令】

2) 文部科学省. 宗教法人世界平和統一家庭連合の解散命令請求について
https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/pdf/93975301_01.pdf

【旧統一教会による高額献金の強要等】
「高額献金を強いられ家族が崩壊した。霊感商法によって困窮を余儀なくされた。地裁の決定文からは、被害の状況を重く受け止めたことが見てとれる」

3) 旧統一教会の解散命令、進む高裁での審理 被害者救済へ重い国の責任|2025/08/01 朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/AST7036TJT70UPQJ00XM.html

【旧統一教会の異常性】
「米ノースカロライナ州立大学のレビ・マクローリン教授 (宗教学) によると、旧統一教会は1960年代以降、世界全体の収益の80を日本から得ていると考えられていると話した。1980年代のバブル期には、日本支部が毎月100円を韓国本部に送金していたとされている。マクローリン教授によると、日本人の信者は、植民地時代の過去を『清算』するよう求められており、合同結婚式も一種の『補償』とみなされているという」


4) 旧統一教会、韓国で合同結婚式 1300組が参加|2025/04/23 AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3574547


5) 櫻井前掲書


【安倍晋三元首相の銃撃事件と旧統一教会】

「旧統一教会を巡っては安倍晋三元首相の銃撃事件後、自民党議員らが選挙で票集めなどの支援を受けていたといった関係が明らかになった」「自民党は20229月、党所属議員と旧統一教会の関係への批判が高まったのを受け、会合出席や選挙の協力受け入れなどで教団と何らかの接点があった議員が計180人いたと公表した」

6) 自民幹事長影響受けうる行為厳に慎む 旧統一教会に|2025/03/25 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA257SA0V20C25A3000000/


【韓国で進む旧統一教会に対する捜査より】

「世界平和統一家庭連合 (旧統一教会) が韓国の最大野党『国民の力』を選挙などで不正に支援した疑惑を巡り、特別検察が捜査を本格化させている」

旧統一教会、捜査本格化 韓国特別検察 選挙で不正支援疑惑|2025/09/01 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20250901/ddm/007/030/101000c


「韓国警察は30日、世界平和統一家庭連合 (旧統一教会) 20191月に与野党の国会議員11人に100万ウォン (11万円) から300万ウォンの違法な政治資金を贈ったことが確認されたと発表した」

7) 韓国警察 旧統一教会関係者4人を送検=与野党議員11人に分散献金|2025.12.30 聯合ニュース
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20251230003200882?section=politics/index


「韓国の捜査機関が押収した統一教会による第二次安倍政権以降の自民党の工作報告資料を韓国のハンギョレ新聞と聯合ニュースが報じた」

8) 萩生田光一氏や高市早苗総理の名も。韓国で押収された統一教会政界工作報告書、今こそ徹底検証を! 2025/12/31 鈴木エイトの調査報道ファイル
https://eitosuzuki.theletter.jp/posts/ac59c3e0-e620-11f0-b16f-0fc3f802a91b

(安倍首相は) それ (選挙支援) について非常に喜んで安心しているようだった」「我々が応援した国会議員の総数は、自民党だけで290人に達する」「高市早苗現首相の名前も32回登場する」


9) 【独自】「安倍首相、選挙支援に非常に喜んだ」旧統一教会、内部報告文書で言及|2025/12/29 ハンギョレ新聞
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/55079.html


旧統一教会などは「社会悪」 徹底捜査を指示=韓国首相|2026/01/13 聯合ニュース
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20260113002300882

【韓国発の情報に対する日本の報道機関の検証】
NHKは、ハンギョレ新聞が伝えたものと同様の内容を取材で確認しました」

10) 旧統一教会 衆院選自民290人応援教団に報告 韓国メディア|2025/12/31 NHK
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015017301000


【旧統一教会被害者家族の会、弁護団】

11) 全国統一教会被害者家族の会  https://e-kazoku.sakura.ne.jp/


12) 全国統一教会被害対策弁護団  https://uchigai.net/

 

 

 

 

 

2024/08/03

『失われた創造力へ—ブルーノ・ムナーリ、アキッレ・カスティリオーニ、エンツォ・マーリの言葉』を読んで Thoughts on reading 'Towards a Lost Creativity: the words of Bruno Munari, Achille Castiglioni and Enzo Mari'

 



 20245月に出版された多木陽介 (編訳著)『失われた創造力へ—ブルーノ・ムナーリ、アキッレ・カスティリオーニ、エンツォ・マーリの言葉』 (80-81頁。写真) を最近読みました。20世紀半ばから後半にかけて活動した3人のイタリア人デザイナーの言葉が右頁に、「これらの言葉を現代の視点から解釈した筆者の見解」 (5) を左頁にそれぞれ配した見開きを単位として、本書は構成されます。

 本書は、自分にとって共感するところが多く、学び多き本です。その中でも最も惹きつけられた言葉を以下に引用します。

   デザインとは、一つの専門分野であるというよりは、
  むしろ人文科学、テクノロジー、政治経済などについての批評能力を
  個人的に身につけることから来るある態度のことなのです。
 

 同書80 (写真)に載る、故アキッレ・カスティリオーニの言葉です。

多木陽介 (編訳著) 『失われた創造力へ—ブルーノ・ムナーリ、アキッレ・カスティリオーニ、エンツォ・マーリの言葉』 どく社           ISBN: 978-4-910534-04-6 価格: 3,000 https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910534046


 ちょうどカスティリオーニが逝った頃、彼の考え方はデザインとデザイナーのあり方の本質に当たると思うと友人に教わり、確かにそうだと感じ、以来そのことを忘れずにいました。ただし、上に引用した言葉を読むのは初めてでした。彼の考え方に初めてふれてからおよそ20年が経つ今、新たに示唆に富む言葉に出逢うことができて、非常に嬉しく思います。

 編訳著者は、こう書いています。「彼らの仕事は、倫理性と社会性に富み、企業の利益よりも社会性のある創造 (中略) を使命とし、その後の消費主義社会のためのデザインとは全く相容れない性格をもっていた」 (3)

 日本においても、デザイナーを名乗る人々の「人文科学、テクノロジー、政治経済などについての批評能力を個人的に身につけること」の不足から、本人はどう「社会のためのデザインを」と言おうとも、その仕事は「消費主義社会のためのデザイン」に陥ってしまうという例が、顕著に見られると感じています。

 私たちは職業を通してしか社会とつながっていないわけではなく、むしろ市民として、民主主義社会に生きる主権者としての責任を他人任せにせずまず全うしようと努めなければなりません。私は、与党による政治が対米従属と政財界の利権差配にほぼ等しいかのような現在の日本社会は、根本のところで、商行為としてのデザインでどうにかできる状況にはないと受け止めています。それゆえ、いくつかの情報媒体を通して時々発信してきているように社会運動に参加し、デザイナーとして行える社会的行動を発想し実行してきています。

 そして、さまざまな社会運動に参加しながら、政治や社会の問題から目を逸らしたり安直に対したりせず積極的に関係を持とうとし続けることで「批評能力」を獲得し向上する人々も、私よりずっと若い世代を中心に増えてきていると実感しています。

 編訳著者による以下の言葉は、今、私が目にしている日本の状況にも当てはまると思います。「それまであまり見かけることのなかった新しい職能とともに、 (中略) 非資本主義的な態度と価値観を身につけて活動する人びとが、建築やデザインだけではなく、教育、経済、政治、環境、国際支援、芸術、演劇、金融、食、農業、福祉、医療、まちづくり、その他、実に多くの分野において (まだまだマイノリティではあるが) 登場してきている。現代社会の病み、傷んだ創造力を治癒・修復しに来たかのように、歴史が一度忘れたある創造力が蘇りはじめていると言えるだろう」 (3-4)

 「非資本主義的な態度と価値観」に私は共感しますが、それは、絶えず利潤を求め、資本を増やし、経済成長を図ることが可能という幻想 (自然資本を減じれば経済ひいては人間生存は持続不可能になります) に囚われて労働者や自然からの搾取を続ける、他者の犠牲の上に成り立つ社会構造を批判し、変革しようとすることではないかと、今は考えています。自身、自己批判と改善の努力が足りてはいませんが。

 私は、これまで「消費主義社会のためのデザイン」への批判と、異なる選択肢の提示を続けようとしてきたつもりでした。例えば、私は、2011年に発生した東日本大震災の複数の津波被災地で、住民有志の求めに応じて災害復旧代替案作成に携わってきました。

参照: 国際津波防災学会公開検討会発表スライド生態系を基盤とした防災・減災の実現に向けた総合科学的課題
 
  しかし、「社会のために」と言いながら、事業決定や用地取得の背景に政財界の癒着や異論を示す市民の排除などがある案件に携わり、一般に美麗と評価される外観をそれらに与えて問題を隠蔽することが「デザイナー」の役割であるかのような例が増えてゆくと感じられる一方、業界のみならず関連学界でもそれに対する議論や批評、批判は見当たらず、(デザインに幻想を抱いていたという意味で) 間違っていたのは私の方で所詮デザインとはそのようなものであったかもしれないと、半ば諦念しかけていました。

 他者の考えがつづられた文章を自分に都合よく誤読、曲解しないように気をつけなければなりませんが、冒頭に引用した文章は、このようなことなら自分もめざしてきたし、今後意識して一層はっきりとめざせるかもしれないと思えるものでした。そして、上記引用文にある「非資本主義的な態度と価値観を身につけて活動する人びと」の台頭は、特にここ数年の日本の社会運動の状況にも当てはまり、とても勇気づけられます。

 私もまた、「消費主義社会のためのデザイン」に対する批判と、本質的なデザインの可能性追求を、研究と実践を通じて続けてみたいと思います。

 

(短文ではありますが) 結びにかえて

 編訳著者のお父様は、私の大学時代のゼミの恩師でもあります。恩師からも本書の編訳著者からも、自分の学びと生き方にかかわる重要な示唆を受けていることに、感謝の念を覚えます。

 

 

 

 

2023/09/22

景観の価値形成と歴史認識の関係についての一考察: 「造園学」の研究・実践における庭園の扱いに見られる非対称性に着目して A study of the relationship between landscape value formation and historical perceptions: Focusing on asymmetries in the treatment of gardens in the study and practice of ‘landscape architecture’


English below

 

私は、2023917日に、日本地理学会2023年秋季学術大会で発表を行いました。資料の概要版をここに掲載します。なお、以下の文章は発表要旨を転記したものですが、写真1点を含む発表要旨 (PDF) researchmapよりダウンロードしていただくことができます。発表要旨は、J-STAGEでも公開されています。


I 研究の背景と目的

 

 わが国の「造園学」は、近代工業化や市民社会の成立等に即して米国で創始された‘landscape architecture’を造園学と翻訳して移入1)した後、近代以前に整備された庭園をも研究対象としている。創始の契機となったニューヨーク市のセントラルパーク整備は、英国の地方自治体が初めて整備した公園、リヴァプール市近郊のバーケンヘッドパークを参考に行われた。バーケンヘッドパークの空間構成、意匠にはイングランド式風景庭園の方法が用いられ2)、造園学研究に庭園史研究が位置づけられることはそれに通じる。

 ただし、庭園には、「権力者の私的独占物」3)や植民地における「教化空間」4)としての整備例が含まれる。そうした面も史的研究において参照されなければ、造園学研究者・実務者および造園された施設を利用する市民にとっての景観の価値形成に、往時の庭園整備への社会階層構造の反映がそのまま影響を及ぼすことが想定される。

 これを踏まえて、本研究では、造園学研究・実践における庭園の扱いに見られる非対称性に着目し、景観の価値形成と歴史認識の関係について考察する。

 

II 始点となった英米の事例から

 セントラルパークの設計者フレデリック・ロー・オルムステッドは、バーケンヘッドパークを訪れて「永遠に人々のためのもの」と表した5)。そして、当時の米国北部で奴隷制が廃止されていたのに合わせて、都市の衛生環境改善を第一義としつつ富裕層と貧困層の別なく公平に利用できる公共空間をと同公園の設計に臨んだ。

 その計画対象地には、かつて奴隷とされたアフリカ系アメリカ人が住む村があった。同公園の管理委員会は、彼らは補償を受けて立ち退いたが、金額が過少とする声が少なくなかったとの調査結果をウェブサイトで公開している6)


III 社会階層構造の反映に対する批判的検討の不足

 「歴史学における非対称性をめぐる議論は、新しいものではない」7)。わが国の造園学研究にも、被差別民を扱った例等がある8)。しかし、各時代に力と富を集中的に得た者たちが所有した庭園の空間構成、意匠と思想文化的背景に偏った歴史認識に非対称性が備わる問題への言及を欠く、歴史教育に関した専門的議論の例も見られる9)

IV 考察と展望

 こうした非対称性は、例えば今日の東京五輪2020を契機とした宮下公園10)や明治神宮外苑の再開発が公正な資源配分11)と相容れない点にも重なり、「永遠に人々のためのもの」となる公共空間の創出に資する造園学の基本趣旨に合わない。問題を放置すれば、前近代性を残存させた社会階層構造12)に基づく人々のハビトゥスの違いから文化的再生産が生じることにも造園学研究者・実践者は関与しよう。

 発表者は、一改善策として、二つの大学で民衆の視点にも立つ庭園史解説を含む造園学講義を実践してきた。今後は、日本における市民的な公園整備の嚆矢である合浦公園等の事例研究を解説に加えることを課題としたい。


1) 粟野隆 2018. 近代造園史. 建築資料研究社. 34-37

 

2) 奈穂 2009. ヴィクトリア朝期イギリスにおける自治体公園の誕生—バーケンヘッド・パークの成立を通して.  

 ヴィクトリア朝文化研究7: 50-53

 

3) 二宮孝嗣 造園に見る欧米主義と日本主義. 環境技術32 (5): 364-367

 

4) 楊 舒淇. 2005. 日本植民地時代における台湾の庭園造営とその背景について. ランドスケープ研究68 (5): 431-434

 

5) Birkenhead Park | The People’s Garden

 https://birkenhead-park.org.uk/explore/the-peoples-garden/ (2023-7-16参照)

 

6) Central Park Conservancy | Seneca Village https://www.centralparknyc.org/seneca-village (2023-7-16参照)

 

7) 檜皮瑞樹 2021. 歴史資料の非対称性と歴史研究. アーカイブズ学研究34: 40-51

 

8) 林まゆみ・林 樹華 2000. 善阿弥とその周辺の山水河原者に関する再検討. ランドスケープ研究64 (5): 403-408

 

9) 特集: 造園学における歴史教育. ランドスケープ研究60 (4): 295-314

 

10) 窪田亜矢 2021.「都市における『公園』」の再考—事例研究: 繁華街・渋谷における宮下公園の変容. 

   日本建築学会計画系論文集86 (781): 1001-1011

 

11) 竹内啓一 1996. 社会思想としての地域問題. 地理学評論Ser. A 69 (3): 145-164

 

12) 小熊英二 2000. 「日本型」近代国家における公共性. 社会学評論50 (4): 524-540




I gave a presentation on 17 September 2023 at the General Meeting of the Association of Japanese Geographers, Autumn 2023. A summary version of that material is available here. The abstracts of the presentations are also available on J-STAGE.


I Purpose and background of the research

 Landscape architecture', which was founded in the USA in line with modern industrialisation and the establishment of civil society, was translated into Japanese as 'Zoengaku' means 'landscape gardening' and introduced into Japan, and has since become the subject of research on pre-modern gardens as well. The development of New York City's Central Park, which was the starting point for the founding of the discipline, was based on Birkenhead Park near Liverpool, the first park developed by a local authority in the UK. The spatial structure and design of Birkenhead Park used the methods of English-style landscape gardens, which is why the study of garden history is positioned in landscape architecture research.

 However, gardens also include examples of 'private monopolies of the powerful' and colonial 'cultic spaces'. If such aspects are not referred to in historical research, it is assumed that the reflection of social stratification on the maintenance of gardens in the past will directly affect the value formation of the landscape for landscape architects, practitioners and citizens who use the landscaped facilities.

 On this basis, this study focuses on the asymmetry in the treatment of gardens in landscape architecture research and practice, and examines the relationship between landscape value formation and historical perceptions.

II From the British and American cases as a starting point of landscape architecture

 Frederick Law Olmsted, the designer of Central Park, visited Birkenhead Park and described it as 'all this magnificent pleasure-ground is entirely, unreservedly, and for ever the people's own' He went on to design the park as slavery was being abolished in the northern part of the USA at the time, with the primary aim of improving urban sanitation and creating a public space that could be used equitably by both rich and poor alike.

 The planned site included a village inhabited by formerly enslaved African-Americans. The Central Park Conservancy has published on its website the results of a survey showing that although they were compensated and evicted, many people said that the amount was underpaid.

III Lack of critical examination of the reflection of social stratification in gardens

 'The debate on asymmetry in historiography is not new' There are also examples in the study of landscape architecture in Japan, such as those dealing with the dispossessed people. However, there are also examples of professional discussions on history education that lack reference to the issue of asymmetries in the spatial configuration of gardens owned by those who gained concentrated power and wealth in each period, and the problem of asymmetries in historical perceptions biased towards design and ideological and cultural background.

IV Discussion and  Future outlook on the research

 Such asymmetry overlaps with the fact that, for example, the redevelopment of Miyashita Park and the Meiji Jingu Gaien Garden (Meiji Shrine Outer Garden) on the occasion of today's Tokyo Olympics 2020 is incompatible with fair resource allocation and does not fit the basic purpose of landscape architecture, which contributes to the creation of public spaces that are 'for the people forever'. If the problem is left unaddressed, landscape architectural researchers and practitioners will also engage in cultural reproduction due to differences in people's habitus based on a social hierarchical structure that has left pre-modernity behind.

 As one remedial measure, the presenter has practised landscape architecture lectures including garden history commentaries that also take the people's perspective at two universities. In the future, the presenter would like to add case studies such as Gappo Park (Photo 1), a pioneering example of civic park development in Japan, to the commentary.




「大阪市の横山英幸市長は6日、此花区の人工島・夢洲 (ゆめしま) の利用に絡むインフラ整備費用として、1129億円かかるとの見通しを示した。うち808億円を市が出すという」「市によると、一連の整備事業では万博のほか、カジノを含む統合型リゾート (IR) での利用に向け、上下水道、鉄道、幹線道路の整備などを808億円かけて進める」「横山市長はこうしたインフラ整備について『万博があろうがなかろうが、必要な費用だ』と理解を求めた」。出典: 万博・IRに向け夢洲インフラ整備に1129億円、万博会場費と別|2023/12/06 朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASRD66RL3RD6OXIE03Z.html (2024-08-25 参照)

 

https://twitter.com/CentralParkNYC/status/1372680004757241856
https://twitter.com/NationalASLA/status/1105091251014172673