2018/12/01

生態学的土地・資源管理の一環となる環境形成技術について Une perspective sur les applications holistiques de la conception environnementale comme la gestion écologiquement responsable des terres, de l’eau et des ressources naturelles



2018/11/21
アンスティチュ・フランセ東京「ル・ラボ vol. 21」 − 発表スライド
Presentation-slides for "Le Labo vol. 21" at Institut français du Japon – Tokyo



 
2011-12年、そして2017年に東北地方の太平洋沿岸を撮影した写真家、小野規氏の展覧会「COASTAL MOTIFS (コースタル モチーフス) 」 1) の開幕に合わせて、11月21日に主題を「東北の住民は周囲環境の変化をどう捉えるのか (Quelle place pour les habitants du Tohoku face à la mutation de leur environnement?) 」としてアーティストトークが催されました。私は写真家からそこに招かれ、仲西祐介氏 (KYOTOGRAPHIE 共同創設者/共同代表) 2) の進行による対話に参加しました。

 
[画像: 小野規 COASTAL MOTIFS, 2017-2018, 大船渡湾 – 岩手県 #9183 ©Tadashi Ono / La Villa Kujoyama]


 トークの席で、私は2015年の第3回国連防災世界会議パブリックフォーラム 3) での報告の概要をスライドショーの映写により説明しました。小野氏の写真活動の意義や背景を環境デザイナーの視点から科学的に伝えようと考えてのことでした。

 スライドショーは、東日本大震災発生後の宮城県気仙沼市本吉町小泉地区における宮城県の災害復旧事業の内容に対する懸念を指摘し、私が住民・研究者有志と共に作成した代替案について説明する構成としています。ただし、この代替案にしても、減災面だけをいえば、宮城県による災害復旧事業の理論的根拠をまとめている東北大学災害科学国際研究所が行った津波シミュレイションの結果から改良が必要な点があると指摘されています 4)

 しかしながら、同県が計画し実施する事業には、生態系サーヴィス (物質交換・循環と生物生産およびこれらと人間の生命、生業の保持の関係) の阻害、県費からの管理費負担、破損部位の廃棄による環境負荷等の問題が伴うといえます。

 また、スライドではふれていませんが、トークの中で話したことを簡単に付け加えておきます。定量化による評価はできないのですが、同県は事業内容の説明を地域社会の歴史的な人間関係形成への配慮をせずに行い、コミュニティへ影響を及ぼしたと私たちは受け止めています
5) 。加えて、通常は日常生活から祭祀などまでを通じて地域の生活者がある程度共観しているといえる生活世界の変質、部分損失を生じさせる問題を引き起こしたとも考えられ 6) 、看過できません。

 私はこの展覧会を、写真を撮る方や好む方だけでなく絵を描く人、文を書く人、映画を撮る人、音楽を作る人、環境のことに限らずデザインをする人など物作りにかかわられるさまざまな方に見ていただきたいと思います。創造行為は人間の問題と切り離せず、人間の問題には自然の問題も社会の問題も (政治や経済の問題も) 含まれます。それらを引き受けようとした時、創造行為は問題解決に向けた力の一つになり得ることを、この徹底的に感じ、思い、考えられてつくられた展示を体験することで、 (美術大学で学んだ) 私は思い出せた気がしています。ずっと本で読んだり折々にそういう創造行為にふれられてもきましたが、力のある実例に接してはっきりとそう感じることができました。

 地理学、地質学、生態学、人類学、民俗学、歴史学、水産学、経済学などに関係する方々にも見ていただきたく思います。森林の生態学や風致について学び、以降も自然や環境、歴史に関心を持ち続けてきた写真家は、さまざまな事物を写真に写し込んでいます。私はそれを一つひとつ解説したくなりました (brochure が作りたくなりました) 。皆さんならば、なおさらでしょう。

追記
 スライド第21、22葉に載せた写真は、気仙沼市在住の菅原圭子氏のご厚意により借用しました。同氏は広く東日本大震災津波被災地各地の災害復旧・復興事業の状況の撮影を続け、SNSで発信を続けられてきました。そのことに敬意を表すると共に、この場にてお礼申し上げます。ありがとうございました。


1) 「沿岸生態系を活用した防災と減災’Eco-DRRの主流化と課題」パンフレット (PDF) 
http://drr.tohoku.ac.jp/system/wp-content/uploads/2015/01/pamphlet.pdf

2) 第2回復興支援活動連絡会報告: 気仙沼市津谷・小泉地区災害復旧代替案 − 生態系を基盤とした防災・減災」スライド57葉以下「問題提起」の項を参照 http://shunsukehirose.blogspot.com/2016/02/2-report-at-2nd-liaison-meeting-for.html
3) 「沿岸生態系を活用した防災と減災’Eco-DRRの主流化と課題」パンフレット (PDF)
http://drr.tohoku.ac.jp/system/wp-content/uploads/2015/01/pamphlet.pdf
4) 宮城県|中島海岸及び津谷川外尾川災害復旧事業に係わる取り組み状況|代替案のシミュレーション結果 (PDF) https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/272567.pdf
5) 第2回復興支援活動連絡会報告: 気仙沼市津谷・小泉地区災害復旧代替案 − 生態系を基盤とした防災・減災」スライド57葉以下「問題提起」の項を参照 http://shunsukehirose.blogspot.com/2016/02/2-report-at-2nd-liaison-meeting-for.html
6) 廣瀬俊介「2016/01/09 沿岸環境関連学会連絡協議会シンポジウム「海岸環境の保全・再生と防災・減災」を聴講して」 (Facebookノート) https://www.facebook.com/notes/%E5%BB%A3%E7%80%AC-%E4%BF%8A%E4%BB%8B/20160109-%E6%B2%BF%E5%B2%B8%E7%92%B0%E5%A2%83%E9%96%A2%E9%80%A3%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E9%80%A3%E7%B5%A1%E5%8D%94%E8%AD%B0%E4%BC%9A%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%83%A0%E6%B5%B7%E5%B2%B8%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%81%AE%E4%BF%9D%E5%85%A8%E5%86%8D%E7%94%9F%E3%81%A8%E9%98%B2%E7%81%BD%E6%B8%9B%E7%81%BD%E3%82%92%E8%81%B4%E8%AC%9B%E3%81%97%E3%81%A6/993436584086783/
 
















東北大学災害科学国際研究所による本案を対象とした津波シミュレイション結果|宮城県ウェブサイトhttps://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kasen/nakajima-tuya-torikumijyoukyou.html



















 
 
 

2018/11/26

「自然と建築」について考えるためのメモ  A way of thinking about the relationship between nature and architecture



2018/11/22
東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科 建築設計演習 − 講義スライド
Presentation-slides of the lecture for a architectural design exercise "Nature and Architecture" of Tohoku University of Art and Design, Department of Architecture and Environmental Design



 東北芸術工科大学建築・環境デザイン学科の馬場正尊教授の起案による第3学年後期後半 (
2018年11月 − 2019年1月) の建築設計演習「自然と建築」を、竹内昌義教授と共に特別講師として担当することになりました。


 課題はおおむね次のようなものです。課題書より抜粋します。「自然の恵みにあふれた山形だが、それを実感できる場所は街中には少ない。そこで、馬見ヶ崎川周辺に、そういう場所を見つけ出し、整えて、「場」を作って欲しい。 中略) 提案するものは建築の提案でもランドスケイプの提案でもある。その境界を曖昧にしてもいい。 (後略) 」。

 これに対して、私は「自然と建築を考えるためのメモ」と題する講義を通して、基礎となる情報の提供と考え方の例示を行うことにしました。

 以下に講義レジュメの本文を写し、続いてスライドを掲載します。スライドの目次立ては、講義レジュメに対応しています。本文の下に、この講義内容を作成する作業を通して明確にしていった、 [私が本演習に臨む上での趣意] と[指導の目標] を書きます。





1. 内海隆一郎『欅通りの人々』より

 同書の舞台は東京近郊の町で、約2kmにわたる欅 (けやき) の並木道に沿って暮らし商う人々が交互に登場し、それぞれの人生が交錯する設定がされる。その中からいくつか引用をする。
 「欅の葉の舞い落ちるのを眺めるのは大好きである。落葉が歩道に敷きつめられた風情も捨てがたいと思っている」「小田さんが落葉を掃くのは、ほかにすることがないからである。欅の木と競っているような気になるのがいい。まるで意地悪しあってでもいるように落葉を降らせたり掃いたりするうちに、欅と遊んでいるつもになっているのが楽しい」1)
 文中の「小田さん」は70歳になるのを目前に控えた男性で、出征から戻ると、妻子をはじめ家族がみな空襲で犠牲になってしまったらしく、以来46年もの間一人暮らしをしてきている。その彼の寂しさが、自然物である欅とふれあうことで紛らわされ、楽しく感じられてもくるという描写がされる。
 「歩道沿いの欅と欅のあいだに、つつじの株が植え込んである。そのすべての叢 (むら) が、純白の細い糸でできた大小の繊細な網におおわれていた。欅の下枝も美しい網で飾られていた」「霧の粒をやどしたクモの巣であった」2)
 人間が自然物である「欅」「つつじ」3) を道路に植え、そこへクモが棲みつき、クモの巣に霧の粒がやどされる。人の手が加えられた環境の中で起きてはいるが、クモや霧の営み、水の巡りはほとんど自然のできごとであると考えられる。


2. アン・W. スパーン『アーバンエコシステム』より

 米国のランドスケイプアーキテクト、アン・スパーン (Anne Whiston Spirn) の同著は、都市の自然に関する知識や情報をまとめ、都市デザインに応用できるようにと書かれた。
 「しっかりと目を開いて見ないと、都市に残っている自然は樹木と公園だけのように思えてしまう。しかし、(中略) 都市の自然とはわれわれが呼吸している大気であり、立っている大地であり、飲んだり排出したりしている水であり、棲み家を分け合っている生きものたちなのである」4)
 都市の自然を細やかに見つけられるようになるためには、大地や大気と水、樹木などの植物やその他の生きものたちについての知識を増やし、そういうものやことがあると知っていく上に、しっかりと目を開くことが必要になる。これらの自然に関した知識は、都市だけでなく野や山や川や海でも役立つし、自然の物質循環の中で生命と心身の健康を保ち得る私たち人間にとって本来欠かせないものである。



3. 私たちが立つ大地はどのようにできてきたのか

 山形市の中心市街地は、14世紀後半に築かれ17世紀初頭に拡張された山形城と城下町を基礎としてかたちづくられる。そして、城下町の整備は馬見ヶ崎川扇状地の上に、馬見ヶ崎川の流路を扇状地北部へ変更して行われている 5)
 扇状地は、谷口から平野に向かって扇状に開いた半円錐状の地形を持ち、主に河川の次のはたらきから形成される。まず、地形の勾配から生じた水流が大地を削ることを浸食
6)  と呼ぶ。水流に削りとられた石や水流に運搬されながら摩耗してできた砂や粘土は、下流側のより勾配の緩い箇所や水流の成す川が曲がる内側などに取り残されてたまる。これを堆積という。
 川が山から平野へ出るところでは、水が削り運び下ろした砂礫 (礫=れき。河原石) を手放すようにして堆積が起こる。水は自らがとどめた砂礫上の流れやすいところを選んで向きを変え、やがて同心円状に砂礫層が重ねられて扇状地がつくられる。
 こうした大地のつくりに大気の動きや水の巡りなどが関係してできる総合的な地域環境条件に適応した生物が地域生態系を成し、河川流域等を軸とした物質循環系が生じる。

 私たち人間は、このように成り立つ大地の部分、環境の中に身を置き、生命を保ち、心身の健康を保とうとしている。建築は、大地の部分に人間が居場所を重ねる上で重要な手段となる。建築が自然の恩恵を消してはいけないし、自然の恩恵が得られ続けるようにすることで建築の質は豊かにできると考えられる。



講義レジュメダウンロードURL (researchmap|廣瀬俊介) : 
https://researchmap.jp/mu5qjgjgr-2148896/#_2148896

追加資料ダウンロードURL (researchmap|廣瀬俊介) :
https://researchmap.jp/mu7hzkvh1-2148896/#_2148896




[私が本演習に臨む上での趣意]
 建築を考える上で自然を考えることは欠かせず、だから建築を学ぶことに何かひとつ自然に関する興味を意識して結びつけるとあなたの建築の構想をよりふくらみのある深いものにでき、それは物理面からでも精神面からでも試みていけます…と、伝えることを、本演習に臨む上で私は中心にすえます。

[指導の目標]
 上記のことの意味と大切さ、楽しさがわかり、少しずつ建築の学び方を他の分野、学術研究領域などとの関係付けをめざしたものに変えられるように図ることを、ここでの私の指導の目標とします。
 何かを覚えさせたり教え込むよりも、何かが履修者の心の中に起きるのを期待してのことです。
 



1) 内海隆一郎『欅通りの人々』講談社、1994年、10-11頁 http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000175365
2) 内海同書、20頁
3) ニレ科ケヤキ属の落葉高木ケヤキ(Zelkova serrata) 、ツツジ科ツツジ属の街路に植栽される各種 (常緑、半常緑、落葉低木)とも人為的な選択や交雑により固定された品種があり、生物ではあっても厳密に自然物と言い切れない面がある。ここでは自ずと然る(そのように在ることの意) 自然と、その中から自然を構成する無生物、生物を自然物と分けて認識することを促す意味で、これらの二語を便宜的に用いた。
4) アン・W. スパーン『アーバンエコシステム−自然と共生する都市』高山啓子・関 壮吉・両角紀子・大島正子訳、環境コミュニケーションズ、1995年、2頁 http://www.kankyocoms.co.jp/books/ISBN4-87489-121-7.html / The Original: Anne Whiston Spirn, The Granite Garden: Urban Nature and Human Design, New York, Basic Books, 1984
5) 「山形城三の丸跡 (第15次)」『公益財団法人山形県埋蔵文化財センター年報』2015年、28年 http://www.yamagatamaibun.or.jp/?page_id=23240
6) 雨水や氷河、波浪や風が大地を削ることも同じく浸食と呼ぶ。










出典: 伊東豊雄「もののもつ力」2006 東西アスファルト事業協同組合講演会 https://www.tozai-as.or.jp/mytech/06/06_ito17.html



参照: ロンシャンの礼拝堂 公式ウェブサイト http://www.ronchamp.fr/










参照: 廣瀬俊介・田賀陽介「開発を契機に放置林の生態系修復を試みた環境デザイン」2016年日本景観生態学会発表資料
http://shunsukehirose.blogspot.com/2016/07/report-on-landscape-design-for.html





参照: オギュスタン・ベルク『風土の日本』 (筑摩書房、1988年) 第4章章題にある「野生の自然」を、講師はここで「自然」の定義とした。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480854568/









出典: 国土地理院|地図・空中写真閲覧サービス http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1

出典: 国土地理院|地理院地図 https://maps.gsi.go.jp/#5/36.104611/140.084556/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0f1




出典: 産業技術総合研究所 地質調査総合センター|地質図Navi https://gbank.gsj.jp/geonavi/




参照: 廣瀬俊介『風景資本論』朗文堂、2011年 http://shunsukehirose.blogspot.com/2013/04/landscape-as-capital.html





出典/ Source: The Sea Ranch Association https://www.tsra.org/






参照: 山形県酒田観光物産協会ウェブサイト「山居倉庫」 http://www.sakata-kankou.com/spot/165

参照: みかんぐみウェブサイト「紅梅荘」 http://mikan.co.jp/archives/5460

参照: あさひまちエコミュージアム|空気神社 http://asahi-ecom.jp/?p=log&l=179964

出典: NPO法人栃木エコロジー設計協会ウェブサイト http://npo-ecotochi.com/

参照: KAMAGAWA POCKET http://kamagawapocket.com/

参照: 気象庁|過去の気象データ検索 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php

出典: KAMAGAWA POCKET|リノベーションレポート② http://kamagawapocket.com/2013/10/16/402


出典: 無印良品 くらしの良品研究所|ローカルニッポン|裏通り。日々の風景をつくる人 − かまがわ文庫 (写真・文 簑田理香)
http://localnippon.muji.com/news/2662/


建築物の温熱環境調整に関した参考文献の一つとして「real local 山形: 最先端は、山のなか/ 地域エネルギー研究者・三浦秀一さん」を挙げる。
https://reallocal.jp/49961

参照: 廣瀬俊介 ブログ東北風景ノート「環境と経済、そして未来」2018年 
http://shunsukehirose.blogspot.com/2018/03/the-environment-economy-and-future.html