2024/06/29

里地・里山の生態系サービス Ecosystem services in the traditional rural landscapes, Satochi and Satoyama

 

 

 

 私は、益子町と八溝山地周辺で農地と環境・景観の保全、地域の自然資本の保持や経済循環の仕組みづくり、関係人口創出などを自発的に行う任意団体でつくる 「里山循環ネットワーク」 (発起人: 簑田理香)  のアドバイザーを、西山未真・宇都宮大学教授 (農業経済学) と務めています。

 2024621() 同ネットワークは、参加する各団体の活動状況を報告し、地方公共団体と民間組織とでどのような協働が行えるか考え始めるために意見を交し合う会を、益子町役場で開きました。

 以下、当日の配付資料に掲載されたネットワーク立ち上げの趣旨を引用します。

 益子町には、里山が農業とともに窯業にも利用されてきた歴史があります。その結果として、町そのものが里地・里山といった状態が続いてきました。しかし、薪炭が他の燃料に置き換えられ、近年は原発事故による放射性物質の拡散の影響も受けて、里山の多くが放置されています。さらに、他の地域と同様に農業人口の減少、後継者不足の問題が深刻で、里地での耕作放棄が進んでいます。かつて拡大造林政策によって植えられたスギやヒノキも、木材輸入が自由化されてのち放置されるようになりました。竹林の放置も、めだちます。

 こうした状況から、さまざまな課題が見つかります。ただでさえ食料自給率が低い日本の「健康的な食の供給」、人家に近いところにも藪が増えてイノシシが身を潜められるようになったことなどから発生件数が増えたと考えられる獣害、利用の見込みのない山林を持て余す高齢者から用地購入をしての太陽光発電所や産業廃棄物最終処分場の建設などへの対応が求められます。

 その一方で、個人や、任意の集まりで、土地にあるものに目を向け、その資源を循環的に持続的に活用し、生活や社会の中で賢く活かしていく取り組みを進めている仲間がいます。皆さんは主に「非農家」であり、これまで農業/農村が担ってきた「多面的機能」を引き受けていると言える側面もあると思います。 

 そのような実践者の皆さんを繋ぎ、「情報」や抱えている「課題」、そして「知恵と技術」を共有する場を (ネットワークとして) つくり、必要な時に協力体制が組めるようなつながりの創出を期して呼び掛けたものが、里山循環ネットワークです。現在は、ネット上にページを作成し、それぞれの団体の紹介を行い、また、LINEグループを作り日頃の情報共有などを行っています。


 当日は、ネットワークに参加する6つの団体から活動概要を報告した後、アドバイザーからコメントを述べ、最後にこれらをもとに町職員の方々と廣田茂十郎町長より感想や意見を伺い、意見や情報を交換しました。

 私は、以下の3点についてスライド20点を用いて述べました。

 
1つ目に、里地・里山の利用・管理が気候危機への対応に結びつくこと (樹木や農地土壌の炭素吸収による) 。

 
2つ目に、里地・里山の利用・管理が生物多様性の保全ひいては生態系サービスの保持に結びつくこと。

 3つ目に、そのような利用・管理から実現される健全度の高い農的景観こそが益子町における理想の景観、ランドスケープの基盤またはそのものといえるのではないかということ。

 内容には不足がありますが、第一にネットワークのメンバーとの今後の議論の材料とすることを目的として、ここにスライドショーを掲載します。ネットワーク外の方がたにも、何か少しでもご参考としていただけるところがあるようでしたら幸いです。




参照: 環境省自然環境局|里地里山の保全・活用 https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html (2024-06-27 参照)

出典: 田村説三「里山の植生の歴史的変遷と人のかかわり国際景観生態学日本支部会報2 (5)1995年、11-12
doi:
https://doi.org/10.5738/jale.2.5_11


 

参照: 環境省自然環境局|自然の恵みの価値を計る|生物多様性と生態系サービス

https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/service.html (2024-06-27 参照)

出典: 公益社団法人東京生薬協会|新常用和漢薬集|ゲンノショウコ  http://www.tokyo-shoyaku.jp/f_wakan/wakan2.php?id=72 (2024-06-27 参照)

出典: 恩田裕一編人工林荒廃と水・土砂流出の実態岩波書店、200854-55https://www.iwanami.co.jp/book/b265615.html (2024-06-29 参照)

出典: アレキサンダーJホーン, チャールスRゴールドマン陸水学手塚泰彦訳京都大学学術出版会1999年、総638頁   

https://www.kyoto-up.or.jp/book.php?id=658 (2024-06-29 参照)


 


 


 次のスライドに出典を記載した文献に、関東平野に広がる黒ボク土はリンを豊富に含有し、しかし作物はそれをそのままでは摂取できないため、リンの施肥が必要になるとあります。

出展: 高木真由・向井真耶・吉田智弘・佐々木真優・水上知佳・北山兼弘「森林生態系への火山灰加入のリン施肥効果」『森林立地』64 (2)2022年、65-76doi: https://doi.org/10.18922/jjfe.64.2_65

出典: 長野県|農業試験場|環境にやさしい農業技術 https://www.pref.nagano.lg.jp/nogyoshiken/naiyo/kankyo/enviroment.html (2024-06-29 参照)


Credit: Butastur indicus [photo by Alpsdake, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36069459], Parus minor [photo by Laitche, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=53756352]


2024/05/04

自然とつながる暮らしのためのランドスケープデザイン: 坂元植林の家「さとのえ」外構整備計画・設計説明資料 For a life connected to nature Landscape design: Sakamoto Afforestation House 'Satonoe' exterior environmental planning and design briefing document

 

 

 

 「坂元植林の家 さとのえ」整備事業に、ランドスケープデザイナーとして参加しています。この記事では、さとのえのランドスケープデザイン、外構整備計画・設計のあらましについて30点のスライドを使ってお伝えします。

 さとのえ (里の家の意。宮城県柴田町) は、林業と住宅建築業を併せて行うサカモトグループのブランド「坂元植林の家」のモデルハウスとして企画されました。同グループは、このモデルハウスを地域の風土に則して整備し、自然と人の関係が保たれた暮らしの価値を示そうと企画を立てました。そのことで地域の森林が守られ、水源涵養ができ、物質循環が保て、雇用機会を持ち続けられ、地域の自然と文化ひいては地域の個性が引き継がれて、地域社会が持続でき、自社も持続できると考えてのことです。私は、この社会的意義の大きな事業に、建築家山田貴宏さんの推挙を受けて参加しました。

 さとのえの計画対象地は、低山から丘陵へ連なる鞍部の尾根から北向きの斜面にかけて、かつて農地とされ、現在はウメ、キリ、カシワ、クヌギなどが点々と植えられた土地とされました。その中で、私たちは水が流れやすく土地がやせやすい尾根に人の活動の場の中心を置くことを決めました。建物は、一棟の規模を大きくし過ぎないことや、季節や日々の天候によって建物と外構とその中間に当たる空間を自由に選んで使えるように分棟されました。建物は、日射しや風、暑い時期ならば夕方から夜にかけて温度が下がって重くなり山側からゆっくりおりてくる冷気を取り入れられる細かな位置とつくりを検討し、設計されてもいます。冬季の風向の67.5 %を占める西風、南西風1) に対しては、尾根の南側の斜面に生える木々が風を上空へ一度逸らす効果を補い得るよう、そして果実を食物にできるという別の役割を兼ねることにも期待をして、地区の農家によく見られるカキノキ、ユズ、イチジクを1本ずつ植えています。その他、ランドスケープデザインの考え方やおおよその中身については、スライドをご覧ください。

1) 四季別風向 [ 昭和32-46 (1957-1971) 大河原局地農気象観測所] 出典: 柴田町史編さん委員会編 (1989) 柴田町史 通史篇 I. 柴田町. p. 14, 18.

 以下は、サカモトグループとビオフォルム環境デザイン室が、さとのえについてそれぞれ設けているホームページです。

さとのえ—里山で自然とともにある暮らし|坂元植林の家
https://www.sakamoto-shokurin.com/satonoe/
「さとのえ」プロジェクト@宮城県柴田町|ビオフォルム環境デザイン室
https://bioform.jp/project/satonoe


担当一覧 (坂元植林の家ウェブサイト掲載情報に一部補足):

建築設計: 山田貴宏 (ビオフォルム環境デザイン室)
建築施工: 株式会社サカモト
左官: 原田左官工業所
ランドスケープデザイン: 廣瀬俊介 (風土形成事務所)
建築外構施⼯: 小畑英智 (庭⼀株式会社)
イラストレーション: 藤井信明 (AIRWORKS)
広報: 簑田理香 (地域編集室簑田理香事務所)
視覚伝達デザイン: 須田将仁 (Takuu tuore)
WEBコーディング: 大塚康宏 (Fundemic)

追記:
 「坂元植林の家 さとのえ」整備事業は、ウッドデザイン賞2023 最優秀賞「環境大臣賞」に選ばれました。同賞は「木で暮らしと社会を豊かにするモノ・コトを表彰し、国内外に発信するための顕彰制度」とのことです。さとのえは、その中の「木を活かして森林・林業や地域・社会の持続性を向上させている」事業を対象としたソーシャルデザイン部門に応募されました。

ウッドデザイン賞2023|一般社団法人 日本ウッドデザイン協会 プレスリリース
https://www.wooddesign.jp/slaker_news/upload/files/attach_file1_20231109acaa9af38407f0381dcc5a6bb23a6470c8de2ed7.pdf?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR2-3BVOd4kW8BdRpNGgTUTPiajqPPyuoITtWyujFBb-74ohCSQhVbTANjs_aem_AXOFp9m8AyCHaje53Sehw5Phe2p5bRjqb81m7SD9jFndfcXEVYa9LbFaCdyiYDS6o4CUe_nlYAEh0Nt5veXhFekP

 

 

 

参照: 坂元植林の家|さとのえ  https://www.sakamoto-shokurin.com/satonoe/