2026/06/16

日本景観生態学会によるランドスケープデザインスクールの企画運営に参加しての報告 Report on participation in the planning and organisation of the landscape design school by the Japanese Association for Landscape Ecology

 

 

 

 

 

口頭発表資料 (スライドショー). p. 1



 2026613() に徳島県三好市池田町で開催された日本景観生態学会2026年大会で、昨年当学会が開設したランドスケープデザインスクールの第1回に関した報告を、「JALEランドスケープデザインスクール第1回報告: 栃木県小山市「田園環境都市おやまビジョン」の具現化に向けた都市部の公園緑地の計画への景観生態学の応用」と題して、企画運営協働者5名で行いました。その発表要旨に、当日用いたスライドショーに追記した内容を合わせて、このブログでも紹介します。概要、目的、方法、実施内容、結果…という発表要旨の流れに沿って、文体は常体から敬体に書き換え、内容をできるだけ平易に表してみたいと思います。

 

 

概要

 

 日本景観生態学会 (Japanese Association for Landscape Ecology: JALE) の中に、ランドスケーププランニング&デザインワーキンググループが設けられています (今回の発表者5名による。以下、WGと省略)WGは、JALEランドスケープデザインスクール (以下、スクールと省略) を企画し、第1回を20259- 20261月に実施しました。参加したのは、当学会の若手会員と景観生態学研究に携わる大学院生です。

 

 

目的

 

 スクール開設の目的は、二つあります。一つは、景観の生態学的な計画・設計に関心をもつ若手会員のためにそれらを学べる機会を用意することです。もう一つは、企画運営者が教育プログラムを提供できるように、景観生態学に基づく景観計画・設計の探究を進めることです。WGメンバーのうち3名は、当学会が教科書として編んだ『景観生態学』1) 11章「景観のプランニングとデザイン」を執筆しました。その作業の中で、編集者と執筆者は、生態学の進展や普及に対応した景観生態学に基づく景観計画・設計の探究が求められることについて確認し合い、それを同書に書いていました。

 

日本景観生態学会編. 2022. 景観生態学. 272pp. 共立出版, 東京. https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10011796.html


方法

 

 スクールは、ある地域に短期滞在し、景観生態学に基づく景観計画・設計によって解決がめざせると考えられる地域課題に関して検討し、成果を地域に提出することを基本として構想しました。ここに、当地で行政や自然環境調査・研究に携わる方々や、景観計画・設計を専門とする方々らの学会外からの協力も受けて多角的に議論ができると、目的の達成により速やかに向かえるのではないかなどとも考えながら、第1回の企画を行いました。

 デザインの指導については、今回はまず、景観生態学研究の成果を社会に実装することが景観の設計、ランドスケープデザインのどこまでを占め、他にどのような研究・技術領域に基づく検討が必要になるのか参加者に確かめてもらおうと意図しました。一般に、デザインに含まれるものと考えられている審美的な側面の追究は、今回は行わないことにしました。さまざまな環境技術を複合して用い、散策や休憩や会話やレクリエーションなどの空間の利用者の行動に対応して通路や座るのに適した場所の確保などをすることで、空間造形はかなりのところまで進みます。そして、そこには理性的であると評価できる景観の質が備わると考えられます2)。このことが、今回、審美的な側面の追究には特に留意しなかった理由となります。

 

 

実施内容

 

 スクール第1回は、栃木県小山市で開催しました。同市は、渡良瀬遊水地のラムサール条約湿地登録 (2012)、ゼロカーボンシティ&ネイチャーポジティブ宣言 (2023) と持続可能性の追求を続け、20253月には30年後の未来を見すえた長期ビジョン「田園環境都市おやまビジョン」3)を策定しています。「田園環境都市」は、近世の街道と宿場町を軸に発達した都市部と、これを取り巻く田園部の調和を守り、そのために都市と田園の二つが揃う条件を活かし、それぞれをよりよくして次世代に受け渡すことをめざす考え方を表します。このようなことから、同ビジョンは、人間が自然から受けているさまざまな恵みのことをいう生態系サービスを保つ必要があること、そしてある環境がどれだけの水や生物を養え、人間の活動の影響を受け入れられるかをいう環境容量を前提とすることを基本に置いて考えられています。このような小山市にスクールの受け入れを依頼し、協力をいただくことができました。

 

 

出典: 国土地理院. 地理院地図https://https://maps.gsi.go.jp
小山市. 2026/06/08. 人口世帯数 https://www.city.oyama.tochigi.jp/shisei/gyouzaisei/toukei/jinkou/page003964.html


 


出典: 小山市. 2025. 田園環境都市おやまビジョン. (2025-09-10取得, https://www.city.oyama.tochigi.jp/shisei/oyamavision/page008689.html)


 課題は、同ビジョンの実現に「都市部の公園緑地の計画への景観生態学の応用」がどう有効にはたらくか考えることとしました。参加者は事前に文献調査を開始し、同市に3日間滞在して踏査を行い、講義を受け、研究課題を検討、設定した後、途中2回の報告会を含め、3ヶ月間で研究計画を作成しました。研究計画とは、どのような背景のもと、どのような目的で、どのような方法をとりながら研究を行うかを計画するものです。この過程を踏む中では、自身の研究の基礎となる先行研究を調べてまとめることもします。このような研究計画を、企画運営者は、報告書にとりまとめて小山市へ提出しました4)

 

 

 同市の都市部には、公園・緑地が最低限分布し5) 、歩行者専用道路に結ばれる範囲もあります。しかし、現地を実際に歩いて状態を観察、確認する踏査を行ってみると、街路樹は少なく、道路でも公園でも高木には強剪定、低木には刈り込みが施されている例があり、ことに道路では高木が十分な葉影を落とさないために夏は人が暑熱から守られず、公園によっては高木の枝葉の量が乏しく、樹林にすむ鳥類の活動に不向きで、外来種や園芸種の植物が道路と公園の別を問わず植えられているなどの、生物多様性と生態系サービスを回復し、保ってゆく上での課題が見当たります。このようなことも、踏査の際に各所で説明しました。

 

 

 

 こうしたことを考え合わせての、地域環境の実態の細かな把握に始まる漏れのない緻密な思考の組み立ては、デザインの骨子となります。それゆえに、「都市部の公園緑地の計画への景観生態学の応用」を課題として研究計画をしっかり立てることが、景観生態学に基づく景観計画・設計の研修に向くと考えました。

 

 

結果

 WG2名を含む10名が、9編の研究計画を作成しました。このうちの1編は、WGメンバー2名の共同研究によります。

 


 

 小山市での研修の第3日目に、同市内で熊を見たと警察に通報があり、大型哺乳類の行動圏にどう留意するかについてなど、改めて参加者、企画運営者が共に確認し合う必要があると考え、山地に発する河川 (これまでにも同市への山地からのイノシシやニホンジカの侵入経路の一つと考えられてきた) と台地上の侵食谷を色分けした図を作成し、共有しました。

 

 

 こうした状況の変化に対応した研究計画も、複数提案されました。以下は、ツキノワグマについての研究に従事する参加者による例です。

 

   (前略) 都市南北方向に分布する緑地構造の特性と、その連結性の在り方に注目した。

  踏査の結果、市域南北部の田園地帯と、市街地中心部に点在する都市公園との間には、

  空間的・機能的な断絶が存在していることが確認された (図1) 6)

 

 提案者はなお、先行研究で「都市における緑地連結の重要性と、野生動物侵入リスクの双方が指摘され」てはいるものの、地域の生態系の部分となる都市緑地の形成を図りながら「同時に人獣衝突リスクを空間的に回避する連結構造」を具体的に検討することは、十分に行われてきていないと指摘します。

 

   河川沿いの連続緑地については野生動物の市街地侵入リスクを考慮し、必ずしも連

  結を強化しない一方、市民の生活圏に近い都市計画道路沿いの緑地を回廊として活用

  する点に本研究の特徴がある。これにより、市民の散策・レクリエーション空間の創

  出と、生態系保全との両立を図る7)

 

 研究計画は、こう続けられます。

 

   本提案を実現するためには、現地踏査、GIS を用いた空間解析、ならびにリスク評

  価を段階的に組み合わせた研究計画が必要である。以下に、本研究で想定する調査・

  解析・実践の流れを示す8)


 生態学/景観生態学研究に従事する研究者による、こうした都市部の公園・緑地とそのつながりのあり方に関した具体的な検討は、公共空間の計画を国や地方公共団体が進める際に、生態学的な段階、ないしはデザインの前段として、本来必要であったのではないでしょうか。参加者によるこれらの成果は、生態学的デザインを志向しながら生態学研究に従事する機会は持たずにきた筆頭発表者のような者にとって、そのような意味を持つと考えられました。また、本スクールの成果は、ビジョン具現化の課題を抽出し、解決を図る上で有用となる先行研究の整理や方法の提示を行っていることで、小山市の今後の施策の起案などにおいて参考としていただけるのではないかと考えています。

 

おわりに

 

 以上、栃木県小山市の協力を受け、当学会としてこのような活動を行いました。

 なお、デザインスクール第2回は、2026731()より82()まで、北九州市で開催する予定です。審美的な側面の追究は留保したままとしますが、今回は公共空間のあり方からさらに歩を進め、生態系サービスの文化的サービスに含まれる散策や休憩、レクリエーションなどの利用者の行動を導く設えなども検討の対象とすることを想定しています。

 

 

参考・引用文献

 

1) 日本景観生態学会編. 2022. 景観生態学. 272pp. 共立出版, 東京.

2) 日本景観生態学会ランドスケーププランニング&デザインWG. 2026. JALEランドスケープデザインスクール2025 プログラム. 10pp.

3) 小山市. 2025. 田園環境都市おやまビジョン. (2025-09-10取得, https://www.city.oyama.tochigi.jp/shisei/oyamavision/page008689.html).

4) 日本景観生態学会ランドスケーププランニング&デザインWG. 2026. JALEランドスケープデザインスクール2025 プログラム. 10pp.

5) 小山市の市民一人当たりの都市公園面積は, 20253月末の時点で9.28m2/. 出典: 小山市. 2024. 都市と緑のマスタープラン. https://www.city.oyama.tochigi.jp/kurashi/toshikeikaku/machizukuri/page007202.html (2026-06-15参照). 都市公園法施行例で, 住民一人当たりの都市公園の敷地面積の標準は10m2/人以上と定められる. 出典: デジタル庁. 2025. 都市公園法施行例. https://laws.e-gov.go.jp/law/331CO0000000290 (2026-06-15参照).

6) 戴 帰航. 2026. 小山市における都市公園を拠点とした南北緑地連結の提案. JALEランドスケープデザインスクール2025 成果報告書: 13-15.

7) 戴同書.

8) 戴前掲書.

 

 

 

 

 

 

2026/02/21

百目鬼川に面した低地の地形・地質とこれらに関係した災害の想定について The lowland topography and geology facing the Doumekigawa River and the anticipated disasters associated with these features

 

 

 

 

写真1 百目鬼川をきれいにする会の活動風景。がっから橋上流側から下流側を見る。2021/12/05 筆者撮影


はじめに

 私が住む栃木県益子町の中心部に、百目鬼川 (どうめきがわ) という川が流れています。利根川水系の二次支川に当たり (益子町内で一次支川、小貝川に合流) 、一級河川に指定されています。上の写真は、2021125日に「百目鬼川をきれいにする会」に参加した際、がっから橋 (益子町道176) の上流側から写しました。普段の水量は、このように人が危険なく立ち入れる程度です。

参照: 益子町|町道路線図・道路台帳附図等の公開 https://www.town.mashiko.lg.jp/page/page001824.html
    ※ 「益子町路線図」「道路橋位置図」とも20243月調製
    同|道路橋一覧表 (202441日現在)  https://www.town.mashiko.lg.jp/data/doc/1727919990_doc_113_0.pdf


写真2 百目鬼川の平時の状況を確認する。百目鬼橋から上流側を見る。2021/06/06 筆者撮影

  202166日に、百目鬼橋から上流側を見て写した写真です (左手の道路は町道175) 。平時には、穏やかに水が流れる百目鬼川ですが、増水時には様相が一変します。

 

写真3 洪水警報発令時の百目鬼川の状況。百目鬼橋から上流側を見る2021/07/12 筆者撮影

 202171218:32、同日16:56から18:33にかけて発令された洪水警報が解除される1分前に撮影した写真です。この日、益子町では人的被害はありませんでしたが、住家被害として2棟で床下浸水があったと報告されています (被害箇所について筆者は確認していません) 。

出典: 栃木県|令和3 (2021)712日大雨による被害について (2報・最終報) https://x.gd/acpTk

 こうした百目鬼川に面した低地の環境条件、具体的には地形・地質と、これらに関係した災害の想定について要約をしたものが、この記事です。内容は、いくつかの法律に則って国土交通省、栃木県、益子町が検討し公開する洪水浸水想定区域図や地域防災計画、その根拠とされる国土地理院 (国土交通省) 、地質調査総合センター (国立研究開発法人 産業技術総合研究所) などの調査成果に基づきます。

 なお、どうしたら防災・減災が図れるか、筆者なりに考えてみたこともあります。それについては、「筆者所感」と明記して参考に書き添えました。以下、地形、地質、気候変動の影響、およびこれらの環境条件から考える公共施設整備の留意点の順に、説明をしていきます。



1. 地形から考えられること

  栃木県は、一級河川百目鬼川 (益子町益子地内)洪水浸水想定区域 (想定最大規模) と浸水継続時間について、水防法第14条の1に基づき、公表をしています (1)

 

1 百目鬼川と同川放水路洪水浸水想定区域 (図中の青線が河川と放水路) (廣瀬改変 2026)

 

出典: |利根川水系百目鬼川放水路 洪水浸水想定区域

https://www.pref.tochigi.lg.jp/h06/town/kasen/kaishu/documents/t72-3doumekihousuiro.pdf

デジタル庁|e-GOV|水防法 https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000193#Mp-Ch_3

 

 これを受けて、また水防法第15条に基づき、益子町は防災マップを作成し、公表を行っています。

 

出典: 益子町|防マップ (ハザドマップ )  https://www.town.mashiko.lg.jp/sp/page/page001030.html 

同|分割3 https://www.town.mashiko.lg.jp/data/doc/1626431385_doc_126_2.pdf

 

 百目鬼川に面した低地における現時点での想定最大規模での洪水浸水深は、最も深いところ (1の薄桃色の範囲)0.5~3.0 m未満、想定浸水継続時間は12 ~24時間未満とされます。浸水深0.5 mは建物1階床上、3.0 mは建物2階床面の浸水に相当します。当地では、土地区画整理事業が進行中です。過去には、図書館の建設候補地としても検討されました。

 

出典: 国土交通省|関東地方整備局|江戸川河川事務所|河川防災情報 

https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_pro/risk_map.html

 

 百目鬼川沿川の延長1,100 mの区間は、益子町地域防災計画資料編27頁「危険区域」の「重要水防箇所」に指定されています。同計画は、災害対策基本法第42条及び益子町防災会議条例第2条の規定に基づき、益子町における防災対策について益子町防災会議が定めるものです。

 
出典: 益子町|地域防災計画 https://www.town.mashiko.lg.jp/page/page004152.html


 百目鬼川に面した低地は、「氾濫平野」または氾濫原、河川低地という地形に分類されます (2)

 

2 治水地形分類図。緑色に彩色された範囲が氾濫平野、橙色が段丘面、薄茶色が山地となる。

出典: 国土地理院|地理院地|治水地形分 (廣瀬改変 2026) 

https://maps.gsi.go.jp/index_m.html#15/36.466421/140.095789/&base=std&ls=std%7Clcmfc2&blend=0&disp=11&lcd=lcmfc2&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1

 

 国土地理院は、治水目的でつくる「治水地形図の内容」として、氾濫平野に関して「堤防越流による洪水氾濫の他、内水氾濫も起きやすく、高の低いところでは高潮にしても危度が高いといえます。また、弱な地の地域では地下水の汲上げによる地沈下や、地震による液状化被害が生することがあります」と説明をしています。

 

出典: 国土地理院|治水地形分の内容|氾濫平野 https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/bousaichiri41051.html

 

 このように氾濫平野において水害や地震に対する警戒が欠かせない根本的な理由として、そもそもが「去の洪水によってつくられた平野」であるという氾濫平野の地形発達史が挙げられます。

 

出典: 国土地理院|山から海へ 川がつくる地形 https://www.gsi.go.jp/CHIRIKYOUIKU/kawa_1-4-2.html

 

(筆者所感)
 益子町防災マップを見ると、百目鬼川に限らず主要な河川に沿う氾濫平野が広い範囲で洪水浸水想定区域とされ、丘陵と山地で土砂害警戒区域、同特別警戒区域、および山地災害危険地区が数多指定され、ため池の老朽化に伴う決壊の想定も記されるなど、さまざまな災害の危険性が確認できます。ただし、これらの災害は、河川に集まる降水を一度受ける流域全体 (34) での森林保全 (適正な利用・管理を含む) や農地保全によって気候変動緩和・適応、水源涵養、雨水流出抑制を図り、治山・治水に結びつけるなどの生態系サービス (調整サービス) を向上することで、合わせて対処していける可能性があります。

 

3 百目鬼川流域と周辺の立体地図

4 百目鬼川流域図

 こうした考えは、2025929日付で、町より回覧のあった文書「益子町ランドスケープ計画について」に対して、任意団体「里山循環ネットワーク」(意見とりまとめ代表者: 廣瀬) として提出した意見書でも述べています。


出典: 環境省|生物多様性と生態系サービス https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/service.html
国土地理院|地理院地図/地理院地図3D (廣瀬改変 2026) https://maps.gsi.go.jp

 

 2. 地質について考え合わせてみてわかること

  百目鬼川に面した氾濫平野の地質は、谷底平野河川堆物といいます。これらは、11700万年前から在にかけて (新生代第四完新世) 、主に山地、丘陵から土砂が河川に運搬され、堆積されてきているものです (5)


5 地質図。水色の範囲が谷底平野・河川堆積物、薄緑色の範囲が段丘堆積物となる。

出典国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター|地Navi 

https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#15,36.46366,140.09660

同|地Navi凡例|堆岩|H_sadQ31_std (第四紀後期更新世。126千万年~7万年前) 

https://gbank.gsj.jp/seamless/v2/legendSub.html?group=1

 

 このように土砂が積もった堆積物の層の下には、基岩と呼ばれる岩盤があります。しかし、地震が起きた時には基岩の上で堆積物が動き、次の問題が起こります。沖積層のような弱地中には多くの波がまれて重なり合い、地震幅されます」。「沖積層」は、氾濫平野の地、堆物を指します。前述の国土地理院「治水地形図の内容」で説明のあった液状化も、こうした地震動の増幅に関係して発生します。

 

出典: 国立研究開発法人 防災科学技術研究所|自然害情室|8. 盤強 

https://dil.bosai.go.jp/workshop/03kouza_yosoku/08kyoushin.html

 

3. 気候変動の影響を考慮に入れる

 ここまで見てきたように、氾濫平野はその地形、地質から、水害と地震に対して警戒が必要な土地と考えられています。近年では、このことに加えて、災害の激甚化頻発化を前提として防減災える必要が生じました。

 なお、最新の考え方では、氾濫平野に形成される湿地 (水田地帯を含む) は、「自然を活用した解決策 (NbS: Nature based Solutions) 、「生態系を基盤とした防災・減災 (Eco-DRR: Ecosystem-based Disaster Risk Reduction) のために有望されています。


出典: 府|令和5年度版 |特集1 2 1 自然害の激甚化頻発化等 

https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r05/honbun/t1_2s_01_00.html   

環境省|自然を活用した解決策 (NbS: Nature based Solutions) https://www.env.go.jp/nature/biodiversity/nbs.html

生物多様性センター (環境省 自然環境局) |生態系を基盤とした防災・減災 (Eco-DRR) の基礎情報

https://www.biodic.go.jp/Eco-DRR/index.html

 

 4. 氾濫平野の環境条件から公共施設整備の留意点を考える

 国土交通省は、「害にい官公づくりガイドライン」で、基本的に災害が生じる可能性の低い敷地を定する必要があるとしています。これは、公費を支出して整備、運営し、不特定多数の利用者が見込まれる公共施設全般にも当てはまると考えられます。

 このようなことから、百目鬼川に面した氾濫平野は、その地形、地質、および気候変動の影響といった環境条件から災害の生じる可能性が低くはなく、公共施設の敷地として不向きであるとすることは妥当といえます。

 

出典: 国土交通省|害にい官公づくりガイドライン https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000056.html

  

(筆者所感)

 土地区画整理事業において、治水面の強化策として宅盤を嵩上げしても、その体積分水位が上がり、浸水深は増す可能性が残ります。また、周辺や下流側 (小貝川下流側を含む) に影響が及ぶ可能性も否めません。「益子町地域防災計画」第2章第6節「風水害に強いまちづくり」の51頁にある「土地区画整理事業等の面的整備事業の推進による防災まちづくり」は、道路の線形整理や幅員拡幅が火災への対応や地震時の避難に有効となりますが、上記の環境条件から水害に対して効果をもつとは考えにくい面があります。

 前述の流域全体での森林保全や農地保全による気候変動緩和・適応、水源涵養、雨水流出抑制、治山・治水などの生態系サービス (調整サービス) 向上と、百目鬼川の土地区画整理事業区域に接する区間での河道拡幅による河積の拡大、洪水調節池の整備 (かつて水田が治水面でも役立ったことに学んで) などを、合わせて検討するべきではないでしょうか。

 

「防災上危険な密集市街地の解消のためには、幹線道路、都市河川などの主要な公共施設整備だけでなく、区画道路や公園、水路などを総合的、一体的に整備することが重要であり、災害に強い都市構造とするには、総合的な都市整備手法である土地区画整理事業等の推進が必要である。このため、町は、土地区画整理事業等の実施に努め、災害に強いまちづくりを推進する」

出典: 益子町|益子町地域防災計画
https://www.town.mashiko.lg.jp/page/page004152.html

 

 以上の内容をPDFにまとめたものを、研究者情報を集約、公開するウェブサイトresearchmapの資料公開ページに載せました。必要とされる方は、自由にダウンロードしてご覧ください。

参照: researchmap|廣瀬俊介|資料公開|百目鬼川に面した低地の地形・地質とこれらに関係した災害の想定について
https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/258009/74f5d383bcdbb7b5de2c391ed10016bd?frame_id=509516