輪中 (わじゅう) は、木曽三川 (木曽川、長良川、揖斐川) の流域によく残る、
堤防で集落を環状に囲う治水工法です。
その応用を東北地方で初めて行ったものが、この「強首 (こわくび) 輪中堤」です。
強首地区は、流域面積4,710㎡を擁する雄物川に面します。
そして、船着き場が置かれ、雄物水運における要衝の一つとして栄える一方、
秋田県全面積の約40%を占める流域の広さから上流部での降雪が影響しての春の融雪と、
夏の台風による洪水被害を受け続けてもきました。
そのような中で、国土交通省東北地方整備局は同地区を水害から守るために、
上流から連続堤を約15km整備する方法と、
集落の周囲のみを延長約3kmの輪中堤で取り巻き、
水は集落に隣接する雄物川旧河道などからなる土地ほかへ反らす方法とを比較検討し、
早期に効果が得られる輪中堤築造を選びました。
迅速に効果が得られることもそうですが、堤防の整備延長がより短いために
河川と周辺へ及ぶ環境影響を軽減することができ、整備費用を抑えられ、
水の勢いに逆らわない伝統工法の思想が理に適うことを合わせて、
私はこの事例を評価します。
なお、この強首輪中堤の存在は、秋田市在住の安藤寛久氏に教えられて知りました。
同氏には参考情報・資料も提供いただいています。
また、岩手県大槌町在住の 池ノ谷伸吾氏には、
本ブログの公開後に次の文を寄せていただきました。
ご本人の許可を得て、以下に引用をいたします。
—
この地区の皆様とは、震災をきっかけにご支援頂き、交流を持たせていただいています。
この強首地区は、洪水以外にも過去に直下型地震の大きな被害も受けた場所だそうです。
雄物川の蛇行と何度も氾濫を繰り返して来た地形、そして幾度か起きた直下型地震、
いろいろな事で危険な場所ではあるけれど、そのかわりに肥沃な大地という恵みを頂いていると、
強首農事組合の会長さんはおっしゃられていました。
しかし、近年洪水も起きていないことから防災意識が低下し、消防団の意識も落ちている……その結果、
住民の繋がりが無くなってきている、とも話されていました。
そして、今後は大槌町民との交流を深め、地域意識を今一度強くしていきたいとおっしゃってくださり、
勉強会も行っていく予定です。
便利、安全は、ある意味リスクを伴うということも、伝えていってほしいです。
—
この場を借りて、お二人の方々へお礼を申し上げます。
誠にありがとうございました。
引用文献
国土交通省東北地方整備局「事業評価資料」2007年
www.thr.mlit.go.jp/bumon/b00097/k00360/.../siryou19_3_5_2_1.pdf
参考文献
安田佳哉「強首輪中堤事業」『土木学会誌 第84巻第6号』日本土木学会、1999年、24-25頁
追記
この強首輪中堤と同じ「水の勢いに逆らわない」治水工法を紹介した記事が、本ブログにはあります。
以下の通りです。
広村堤防視察 20121104 (和歌山県有田郡広川町) :
http://shunsukehirose.blogspot.jp/2013/04/20121104.html
北方遊水池(大柏川第一調節池緑地)の基本設計過程と現在:
http://shunsukehirose.blogspot.jp/2013/04/blog-post.html
砂利敷き部分は堤体に浸透した河川水や雨水の通りをよくして内部の湿潤面を下げ、裏法面の崩壊やすべり破壊を防ぐ目的で設けられているとのこと。尾田栄章氏 (福島県広野町建設課復興建設グループ) にご教示を賜りました。 2013/12/27記 |