2013/04/04

エネルギーシフトと三陸の生業再興試案 Shift to alternate energies and a tentative plan of reconstruction of local industries in the Sanriku coastal area






























講演「エネルギーシフトと三陸の生業再興試案」スライド_25


2012年7月30日に京都で、2013年4月2日に東京で行った講演
「エネルギーシフトと三陸の生業再興試案」を当ウェブログ上で公開いたします。
はじめに論旨を、次いで講演スライド抜粋を掲載してあります。


1. 環境デザイナーにできること

市民には、市民社会の成員としての義務があり、権利がある(1)
加えて、環境デザインを職とする者には、その職業的知識に即して、
他の職能または専門的知識を持つ人々へ向けて問題を提起してよいことがある。
筆者はそれを、市民社会の現在から将来までのために、
さまざまな科学的知見とさまざまな工学的技術の統合がどう行えてどう意味をなすのか、
その可能性を示すことと考える(2)
近代における環境デザインの改めての出自が、19世紀ニューヨーク市民による
居住環境悪化の問題視に起因することも、はじめに記しておきたい(3)


2. 原子力利用の是非

わが国における原子力利用に対して、廃棄物処理が困難なこと、
日本列島の地形発達史から見て(4)地震と津波の危険が常につきまとうと判ることから、
筆者は廃止が妥当と考える。
また、その代替策として自然エネルギー利用比率を高めていくことは、
エネルギー自給率を高め得る点で評価できる(5)
併せて、エネルギー利用量縮減と関連新技術開発を図る必要もある(6)


3. エネルギーシフトと三陸の漁業再興

自然エネルギーの利用増を、エネルギー政策にとどまらず
食料生産や雇用創出とも関係づけて図ることは、理論的には不可能ではない。
東日本大震災後、筆者は宮城県石巻市雄勝町を中心に被災地支援に通っている。
三陸海岸の地形を見ると、山からの鉄供給が海水中の栄養塩(窒素、リン、珪素)と共に
湾内の生物生産を支え、漁民の生業を支えてきた事実がよく理解できる。
しかし拡大造林政策以降、当地における生物生産量は一度低下している(7)
同町立浜地区の方々へ行った聞きとりでは、1960年のチリ地震津波被災以降、石積み護岸が
コンクリート護岸に置きかえられたことも生物生産量減に結びついたという(8)


4. エネルギーシフトと緑の雇用創出

建材自給用の木材生産林(常緑針葉樹林)健全化(経営上の理由から放置された人工林における木材再生産)と、
残る木材生産林の薪炭林(落葉広葉樹林)への段階的な再転換(9)による木質燃料の確保は、
これらの森を水源として発する河川流域から海洋域にかけての生物多様性の保持、
生物生産量の回復に結びつけられる。
国民生活と企業活動に必要な自然エネルギーがそれだけでまかなわれることはないが、
再生産が行え、持続的に利用ができるエネルギー資源の利用管理への着手は、
そのさまざまな意味における公益性の評価のもとに雇用創出事業としても実現できれば、
被災地復興の一助となろう(10)


5. 環境デザイン的地域経営へ歩を進める

上記事業の実施には、林業(燃料生産を含む)と漁業に加えて
建設業者の参加を要する(構造物の生態学的施工と管理)(11)
そして、風景の再生は飲食業や旅館業を含む観光産業の総合的振興につながり、
後背の北上川水系地域における農業や流通業、および観光産業への波及効果も期待できる。


6. 当事業の原発立地地域への展開

このような生業の構造転換策は、原発立地地域においても、
地域経営を安全で持続可能なものとするために応用できよう(12)


7. おわりに

各省がそれぞれの権益確保を前提とするからか、制度疲労のためか、
市民の福祉の追求に応えているとは認めがたい国家行政の実態に対しては、
市民、そして研究者あるいは技術者として疑義があれば質し、
提案ができればそれを示し続ける必要がある。
その一環として、本試案を筆者の声明と位置づける。



(1)
わが国のさまざまな法の中で効力が最も高い根本法である、日本国憲法の条文を引く。
  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の成果であって……(第九七条)
  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。(第一二条)
  1. 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
  2. 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。(1, 2ともに第二一条)
(2)
一例を挙げれば、クリフ・タンディ『ランドスケープ・ハンドブック』(扇谷弘一訳、鹿島出版会、1978年)22-31頁には、デザインへの拘束事項として 「地形」「気候」「日光」「騒音」「(人間の)行動、停留および運動」など、65-70頁にはその他に調査項目として「地質」「土壌」「地力」「土地利 用」「水と排水」「植生」「コミュニケーション」「社会学的側面」などが列記される。通常、環境デザイン研究または実務においては,、さらに多くの把握し考慮すべき地域環境条件がある。
(3)
フレデリック・ロー・オルムステッドによる landscape architecture 創案を指す。廣瀬俊介「オルムステッドがめざした社会改革」『テキスト ランドスケープデザインの歴史』(学芸出版社、2010年)25頁を参照
(4)
米倉伸之、貝塚爽平、野上道男、鎮西清高編『日本の地形1 総説』2-10頁を参照
(5)
「石炭・石油だけでなく、オイルショック後に導入された液化天然ガス(LNG)や原子力の燃料となるウランは、ほぼ全量が海外から輸入されており、2008年 の我が国のエネルギー自給率は水力・地熱・太陽光・バイオマス等による4%」である。出典は、資源エネルギー庁『エネルギー白書 2011』。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/index.htm
(6)
竹内昌義『原発と建築家』(学芸出版社、2012年)95-104頁を参照
(7)
畠山重篤『森は海の恋人』(北斗出版、1994年)80-85頁参照。また、生態系サービスの全般に関した参考文献として、Millennium Ecosystem Assesment 編『生態系サービスと人類の将来』(原題 Ecosystems and Human Well-being: Synthesis、横浜国立大学21世紀COE翻訳委員会責任翻訳、オーム社、2007年)を挙げる。
(8)
廣瀬俊介「思い出の風景から考える被災地復興」『季刊東北学 第29号』(東北芸術工科大学東北文化研究センター、2011年)150-161頁参照
(9)
田賀陽介、廣瀬俊介「DNP創発の杜箱根研修センター第2−開発行為を経て復元していく風景」『LANDSCAPE DESIGN No.74』(マルモ出版、2010年)39-45頁を参照。木材生産林から地域本来の落葉広葉樹林への段階的な林相転換技術を解説。
(10)
国家行政における実践例としては林野庁「緑の雇用」ホームページを参照。
http://www.rinya.maff.go.jp/j/routai/koyou/index.html
地方公共団体による実践例としては、廣瀬俊介『風景資本論』(朗文堂、2011年)98-103頁に記載した飛騨市(岐阜県)による事業を挙げる。
(11)
廣瀬同書112-126頁を参照
(12)
同書の中で、筆者による例を主に、各地における実践について紹介、解説した。