2021/01/01

10年目の早戸温泉遊歩道環境整備実習, 2019/8/26 - 9/1 Tenth year of environmental management training of the Hayato Hot Spring Trail, 26 August - 1 September, 2019

 



 福島県大沼郡三島町早戸地区で、東北芸術工科大学の教員・学生有志を中心として行う早戸温泉遊歩道環境整備実習は、2010年夏に私が代表として開始した時から数えて、2019年夏に10周年を迎えていました。私は、同大学の学部教員であった2012年度まで実習の代表を務めました。現在の代表は、渡部桂准教授です。そして、田賀陽介元准教授の豊富な知識と技術が、この実習の大きな推進力となっています。


 
11周年を迎えた2020年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、現地での実習は中止されました。参加メンバーは今年、 リモートミーティングで早戸地区の方々から環境整備に関した報告、相談を受けながら情報収集をし、技術提案を行うなどの活動を行いました。なお、2019年実習について報告ができていませんでしたので、今年2020年の活動の一環として、簡単ではありますが記事を投稿します。


【第1 −8/26

 
2019年実習の第1日目は、皆で遊歩道の状況を確認し、集落の環境・景観を視察した後、早戸地区の方々が開いてくださった歓迎会に参加しました。学生一人ひとりの挨拶を、最長老の弥一さんが目を細めて頷きながら聞かれていた様子に感じ入るものがありました。

 

 

遊歩道が河畔の草原から樹林の中へ入る箇所です。2010年夏の実習第1回で整備した石積み擁壁がほぼ植物に覆われています。
昨年の作業内容とその後の環境変化、そして今回の作業内容に関した説明が行われます。
2011年の東日本大震災、東京電力福島第一原発事故に続いて起きた、平成23年7月新潟・福島豪雨災害による洪水で上流から流された砂が大量に堆積した箇所です。この時、写真に写るクルミ類の幹には瓦礫が絡まり、海岸部で見た津波被災地の状態が重なって見えました。瓦礫を撤去し、砂地に優先した外来種草本植物を抜き取った後、利用者に遊歩道への意識が一層向くように木杭を打ちました。

 

【第2− 8/27 

 午前中は、今回の施工箇所を中心に選択的除草をして、植生管理と遊歩道管理に関した作業を行い、かつ現地での変更ありきの順応的な設計・施工の準備段階となる地形の体感的把握をしました。

 写真は、私が単独で、皆の作業成果が浮かび上がって見えるようにと作業を行った箇所を写したものです。外来種植物のヒメジョオンと繁殖力がきわめて旺盛なイタドリ、高木に絡みつき巻き枯らしてしまうフジを対象に抜き取り、刈り取りを行っています (写真上が作業前、下が作業後) 。スギ植林で実生から育ったミズナラやクリ、イタヤカエデ、ホオノキなどが生長し、将来はここが保持林業の実験林、見本林のようになったらなどとも考えながら作業をしました。

 

 

作業前


作業後


 午後からは、遊歩道と森林管理用作業道が合流する箇所に当たり、小型重機が向きを変えられるようにすることも目的として設けた小広場の、山側の切土部への空石積み擁壁施工を始めました。第2日と第3日は、福島県土木部の会津若松建設事務所、宮下土木事務所からの職員の方々の研修を受け入れて、この作業を行いました。



【第3 − 8/28


 夕
方、上記の空石積み擁壁施工が、ほぼ終わりました。


 午前中は、第
1回施工箇所のスギ枝編柵補修などを今回実習の後半で行う準備として、繁茂したクズを刈り払い、また落葉広葉樹の下枝を伐って林内や只見川へ視線が通るようにする作業を行いました。

 


今回施工した空石積み擁壁。この遊歩道の石積み工は、すべてモルタルを使う練石積みではなく、石をかみ合せて固定する空石積みによります。

空石積み擁壁の施工風景。
夜、自分たちの作業の意義や課題について振り返ります。



【第4− 8/29

 

 29日は休日としていましたが、講師は学生の希望者と午前中に植生調査を実施しました。調査区は、今後スギ間伐が考えられている範囲から選ばれました。調査目的は、第一に間伐前後での植生の変化を記録することでした。


 夕方
5時からは、地区の方々よりここでの暮らしや思い出や困りごとなどを実習参加者皆でお聞きする懇談会が開かれました。地区の方々に熱心にお話しいただけ、私たちの側はこれからの地方地域のあり方と自らのかかわりの持ち方についていろいろな角度から考えることができました。個人的には、この方々にこうしてよく面倒を見てもらえている影響が学生たちのこれからに必ずあらわれてくるだろうという印象を受けました。


 夕食後は、現地から持ち帰った未同定の植物の部分をもとに講師が同定を行い、植生図と植生調査票を完成しました
(私には、現地での3種に関した誤りを見つけることと1種の同定ができました)

 

 

植生調査の様子。

地区の方々に、ここでの暮らしや思い出や困りごとなどについて実習参加者が伺う懇談会の様子。実習参加者が宿泊所として貸し出していただいた地区公民館の一室で開きました。

現地で同定できなかった植物の部分を持ち帰って図鑑と照合し、植生図と植生調査票を作成しました。

 

【第5 − 8/30 

 

 休日が明けて、2日目午前中に刈った草木を各所で整えて集積し、林内の光環境調整を第一に川面へ遊歩道利用者の視線が通るようにすることも意図して必要に応じ低木をさらに間引くこともしました。


 その上で、
10年前の施工箇所 (この日の写真1点目) 周辺の修景 (曖昧な言葉ですが時間の都合上仮にここで用います) と、同じく10年前に施工し翌年の豪雨災害を受けて改修した箇所 (2点目) の機能回復 (石畳のある暗渠の上に土が堆積していました) などの作業を行いました。


 一日を通して雨が降ったり止んだりの天候で、特に夕方からは豪雨に見舞われてなかなか大変でしたが、学生、講師とも元気に作業を続けました
(招聘講師でしかない私としては、ただただこの実習を企画・運営し実行する他の人々に尊敬の念を抱くのみです) 。写真3点目は、午後見られた只見川の川霧です。

   

 

 

遊歩道から川を見た時に視線が通るように、そして生物多様性保全に留意もして、スギ植林の下刈りを行いました。

もともと斜面から流れ下る水がたまる箇所で2010年にその改良を試みたところ、2011年の豪雨災害後に川からの砂が厚く堆積しました。そこへ暗渠を設け、上面を石畳としていましたがその上へ土が被り再びぬかるみやすくなりました。そのため、土を取り除いて石畳を露出させる作業を行いました。

スギの木立ごしに見る只見川の川霧。

 

【第6 − 8/31

 午前中は、遊歩道での空石積み擁壁新設による森のなかの作業車両転回空間兼小広場整備、植生管理のために刈った草木の整理、既整備箇所の補修、森の入口への小広場整備などを完了しました。


 午後は、逗留する早戸居平
(通称「早戸本村」) の樹林の一部で林床の草木を刈る作業を行いました。これは、昨年から地区の方々との懇談会で「昔は奥の沢まで見通せた」とお聞きしてきたことを、思い出の風景としても今のように獣害に遭わなかった頃の環境の様態としても大切に、植生管理の試行をしてみたものです。


 実習後半からの参加学生と大学を卒業した学生時代の経験者や卒業後初めて参加するメンバーも加わり、新たな勢いを得て作業最終日を無事に終えることができました。

 

 

遊歩道が樹林に入る箇所の脇に比較的勾配の小さな地面があり、そのままでは先駆種植物などが優占する状況が何年も続いていたことからこれらを一度刈り取り、作業車両の停車や資材の仮置き、遊歩道管理者・利用者の休憩などに使えるよう広場的に整備をしました。

上の施工箇所と遊歩道の樹林入口での昼食休憩時の様子。

早戸本村でも、樹林の下刈りやツル伐りなどを行いました。

 

【第7 − 9/1

 午前9時からの早戸地区の方々への報告会と、これと前後しての宿泊先の地区集会所等の清掃、作業用具の洗浄と返却をもって本実習は無事終了しました。


 

早戸地区の方々への報告会。各施工箇所の担当学生が、それぞれの分担について説明します。

報告会より。小広場の山側に施工した石積み擁壁について説明。

報告会より。早戸本村の林内にて。


 今回は、初めて7日間の工程を組んで実習が行われたほか、実習経験者の紹介による京都大学の学生の方の参加や福島県土木部職員の研修受け入れ、同県農林水産部職員の視察受け入れ、多数の東北芸術工科大学卒業生の参加など、さまざまな変化がありました。


 自分にとっては、今回初めて若者の自主的な学びの場
(または若者が成長していく過程) が一種「神聖」に感じられました。また、自分が東北芸術工科大学の教員であった時やこの実習を私が中心になって始めた頃と比べて、自分も含めてここで学習できるランドスケイプデザイン、環境デザインの内容が格段に進歩していることに気がついた瞬間がありました。自主的な学びの場とは、こうして多くの人びとが気持ちを合わせ、時間をかけて経験と成果を蓄積しながらつくっていける一つの社会資産であるように一昨日くらいから考えています。


 おわりに、実習を支えてくださった早戸地区、三島町の方々、同地区の佐久間建設工業株式会社の皆様、実習を企画・運営されている東北芸術工科大学の渡部桂先生、同大学元教員の田賀陽介先生、私の他の招聘講師の方々、そして参加学生の皆さんへ感謝の意を表します。



追記


 早戸温泉環境整備実習のあらましを、本ブログ「東北風景ノート」の別の記事に書いています。ご関心をお持ちいただけた方には、ぜひご覧いただきたく思います。


地域の文理融合研究について: 福島県三島町早戸地区での取り組みを事例に
A thought on a holistic approach to regional studies: A case of the regional educational activity in Hayato district, Mishima Town, Fukushima Prefecture
https://shunsukehirose.blogspot.com/2020/01/thought-on-holistic-approach-to.html

 そして最後に、2009年の只見川流域景観調査に私を同行して早戸温泉遊歩道の存在を教え、その場で私が施工訓練のアイディアを思いつくとすぐに佐久間建設工業株式会社の佐久間源一郎社長 (当時。現会長) へお電話されて私をご紹介いただき、この実習が生まれるきっかけをつくってくださった遠藤光一・元福島県土木部技監が、2020年秋に逝去されたことを書き添えます (同氏には、実習10周年を迎えた826日にも早戸地区へお越しいただいていました)

 心から哀悼の意を捧げます。