2021/09/18

「益子町ランドスケープ計画」についての論考 Essay on "Mashiko Landscape Project"

 

 

 

はじめに:
 

 本稿は、私が暮らす益子町 (栃木県芳賀郡) の行政におけるある一面、問題に関した考察を主題とします。しかしながら、その問題には、拙ブログ「東北風景ノート」の開設の発端となった東日本大震災被災地の復旧、復興の進められ方に関係するところもあると思い、ここに投稿をします。
 

 できるだけ多くの方々に、この問題を知っていただきたいと考えています。よければ記事をシェアいただくなど、周知にご協力いただけますよう、切にお願い申し上げます。


(The English translation is below. If you would like to help, please share this article and help raise awareness of the issues in Mashiko.)


「益子町ランドスケープ計画」について:

 2019
年から益子町の住民となった私は、
最近、「ランドスケープって何?」と町内の方々から聞かれることが続いています。


 なぜ、そう聞かれるようになったのでしょう? 益子町が二人の建築家 *「益子町ランドスケープ計画 http://www.town.mashiko.tochigi.jp/page/page002748.html 」を進めていることが理由です。 また、その町の事業「ランドスケープ計画」が、町長を実行委員長とする催事「土祭2021」のプログラムの一つとして実行されることになっているようです。


*私はここで、建築家の方々を貶めているわけではありません。むしろ、私は、原発事故を挟んで、

 省エネルギーと地域の森林資源の循環利用、経済循環、伝統工法の継承と発展を基礎に、 持続可能な、質の高い

 建築の設計、施工を志向する動きに加わられている日本の建築家の方々を尊敬し、心強く思っています。

 

 さて、ランドスケープとは何か?という質問に対してその計画の中に提示されている一つのプランを例に、お伝えしてみたいと思います。


 英語のlandscapeは大体、日本語の風景に近い意味を持ちます。私の専門、ランドスケープデザイン、ランドスケープエコロジー (景観生態学) にもとづけば、ランドスケープは「地域の目に見える姿」で、自然と人の関係からできています。


 投稿に添えた画像の下の方が、「益子町ランドスケープ計画」の中で描かれたものの一つです。ここは私の家の近くで、丘の上に位置し、四方への眺めがよい場所です。 

 


「益子町ランドスケープ計画」では、例えば図版上の農地の部分の植生と土壌を
剥離、遺棄して、図版下のように整備する計画の「イメージ」が示されます。
出典https://mashikolandscape.wixsite.com/home



 計画では、農地の畔を崩して階段状の擁壁を造り、反対側の農地の作業用地を舗装して駐輪場にかえることが提案されています。


 農地はどうなるのでしょうか? それもありますが、そもそもこの工事は必要でしょうか?


 「益子町ランドスケープ計画」では、「益子の里山風景を未来に繋げる」と副題に謳っています。しかし、提案内容は、遊休農地の一部にハーブを植えることや、休憩拠点をもうけることなどで、その背景として「益子の里山風景」を利用はしますが、自然と持続的な生業からかたちづくられ、生業の営みの変化などから荒廃しつつあるそれを「未来に繋げる」ための農林業への所得保障などにはふれられません。


 そのため、私は町民有志と共に町と町議会への陳情 ** を一度、町への意見書提出を一度、質問書提出を一度ずつ行ってきました。しかし、町と建築家2人は私たちやその他の町民から説明会や書面で疑義を呈されるたびに「これはたたき台。これから専門家に相談し、町民の意見も集めていきます」と繰り返すだけです。なぜ専門家ではない方々に委託業務を発注したのか、私たちには理解ができません


**私を含む町民10名20201014日付けで提出した「益子町ランドスケープ計画に関する陳情」は、

  益子町議会第15回定例会で審議された結果、不採択とされました。

  しかしながら、同通知 (益議第193号、2021315) には、総務産業常任委員会の以下の意見が付されていました。

  「陳情の趣旨は理解できるが、本計画に付随するグリーンベルト、ルーツリンク、スローロード各計画が

  策定前であり、整備実施方法等も検討段階である状況を鑑み、陳情事項である本計画の再検討等は、

  時期尚早であると判断し、不採択とした。

  しかし、陳情の願意を重く受け止め、ランドスケープ評議会の人選については透明性を担保に組織形成を図ること

  また、本計画の推進にあたっては地域住民への説明、周知の徹底を図り、将来にわたり住民との協働体制を

  構築した上で実施されるよう当委員会で注視し、随時調査、審議をすることとした」。

  私たちはこれに基づき、2021823日に「益子町ランドスケープ計画推進委員の募集についての質問書」を町に、

  そして同質問書への町からの回答を受けて、202195日に益子町議会総務産業常任委員会へ

  「要望書『益子町ランドスケープ計画の精査・再検討について』」 を提出しています。 



私たちの考え:

 私は、「益子町ランドスケープ計画」のような事業は、必要ないと考えます (益子町は景観法にもとづく景観行政団体でもありませんし、本当のlandscape planningの根本に求められる生物多様性基礎調査も行っていません)益子のランドスケープ=地域の目に見える姿を通して自然と人の関係の現在を評価し、問題を見つけて解決をめざしていくことならば、今すぐ必要です。


 その中では、人口減少・高齢化社会における税収減の中で、防災・減災 (主に治山・治水) への備えと、食料 (肥料を含む) や燃料が生産できる条件を、地域経済の持続と結びつけて確保することが優先課題となるでしょう。


 (「線状降水帯」による豪雨がどこでも起こり得る状況下、治山・治水の備えには、近年問題が深刻化している山林への大規模太陽光発電施設整備による乱開発の抑止なども含まれねばなりません。)


 そのように、町域全体に里地里山、平地林が広がる中に点在する街村や集落の関係の長所を保ち、根本問題の解決を先送りせずに今めざすことから、人々が心地好く生きてこられた益子風景を引き継ぎ、未来の世代に受け渡すことができるのだと思います。


 益子の友人の一人は、こう言います。「職業柄、東京から訪れるお客様を長らくお迎えしてきました。中には半世紀近い来訪歴を持たれる方もいます。 お客様の多くは、これだけ東京に近い立地でありながら自然が保たれていることに驚き、この風景をこれからも維持していって欲しいと伝えられます。そういった声は、町には届かないのでしょうか? 住んでいる私もそう思うのですが」。


 益子のランドスケープ=地域の目に見える姿を通して自然と人の関係の現在を評価し、問題を見つけて解決をめざしていくためには、私が2014-2015年に益子町から託された以下の委託研究の成果などを精査し、一層充実させていくことも求められるでしょう。

益子の風土・風景を読み解く|土祭2015

https://hijisai.jp/fudo-fukei/


 町から「ランドスケープ計画」を委託された建築家の方々も、当初はなんらかそのように志向されていたかもしれません。計画開始にあたっては、私へ相談があり、私は彼らの求めに応じて、現地と、彼らの1人が勤める大学の授業とで、委託研究の成果について説明をしました。


 しかし、町が策定したとする「益子町ランドスケープ計画」は、同じ町の事業として実施された土祭2015「益子の風土・風景を読み解くプロジェクト」の成果を無効にするものでした。


 このように「益子町ランドスケープ計画」には、ランドスケープデザイン、ランドスケープエコロジーを専門とする者から見て、その質、および地方公共団体による公金を支出しての行財政の一環として容認できない点があり、また、ふだんから町内の環境整備や地域活動にかかわる一般町民の方から見ても同様で、益子町まちづくり基本条例第5条に則って

http://www.town.mashiko.tochigi.jp/.../e122RG00000667.html 有志の方々と共に陳情や意見書、質問書の提出を通して疑義を呈してきています。

 

 加えて、「益子町ランドスケープ計画」についての情報発信が、専用のウェブサイト開設や土祭2021企画等を通じて広く行われていることに対して、私も町内における有志との活動とは別に個人として問題の周知を図りたく、自分にできる手段としてブログへの投稿を行うに至りました。


 ランドスケープの理解には、地域の自然と人の関係を理解するための知識と技術、経験が求められます。ランドスケープの無理解にもとづく「益子町ランドスケープ計画」によって、副題「益子の里山風景を未来に繋げる」とは反対に公金が農地と山林の管理・経営維持のために支出されず、不要な施設が整備され、農地環境が改変され、施設の廃止まで管理費が浪費される可能性が生じています。


 この計画の担当課は建設課ですが (その点も理解に苦しみます) 、担当職員の方々の苦労も察します。「益子の里山風景を未来に繋げる」と掲げるランドスケープの計画であるならば、農政課、環境課と、各課横断型で取り組むべきことですから。


 とりわけ、この1年半、COVID-19 感染拡大によって健康面でも経済面でも不安な状況におかれた方々が多い中、農地と山林の管理・経営維持と失業対策、雇用機会の創出、そして後継者育成などを兼ねた事業などもあればよく、私はそれを陳情時の意見書で提案してもいました。


 また、それ以前により直接的に可能な範囲の公金を防疫のため営業できない方々への補償に用いるなどの選択肢もあるかと思います。


 拙稿をお読みになってくださった皆様にも、この問題に注意を向けていただけましたら心強く思います。どうぞよろしくお願いいたします。



Recently, people living in Mashiko often ask me "What is landscape? I am often asked. The reason is that Mashiko Town is working with two architects* on the "Mashiko Landscape Project".


*I am not trying to demean the profession of architects. Rather, I respect and am encouraged by the 

 Japanese architects who, in the wake of the nuclear accident, have joined the movement to design and 

 construct sustainable, high-quality buildings based on energy conservation, recycling of local forest 

 resources, economic recycling, and the inheritance and development of traditional construction methods.

 

The lower of the two images attached to this post shows the plan. We are going to cut down the shore of the farmland near my house to create a stepped perch. The town and the two architects do not try to solve the problem of lack of successors in farmland and the degradation of forests, but simply use the problematic farmland and forests as a backdrop for the development of rest facilities, which they call "landscape planning".

 

What happens to the farmland and forest?

That's one thing, but is this work necessary in the first place?

 

In 2014-2015, I was commissioned by the town to carry out a landscape ecology survey of the entire town area. However, since then, the town has not used the results of the survey to plan the future of the town.

 

In the meantime, it was decided to create a "Mashiko Landscape Plan". Initially, however, two architects asked me to explain the results of the above study, which I did. They told me at the beginning that they wanted to create a catalogue of landscapes in Mashiko like the one created by the Autonomous Community of Catalonia, and that it was more important to have a database of the results of the various surveys of local resources in the town than to create something new.

 

However, I later found out that the "landscape catalogue" was created by a team of mainly geographers.

 

It seems that the town and the two architects, without a comprehensive scientific study of the landscape, have produced a plan for the development of facilities which, as mentioned above, seems to deprive the town's agricultural land and forests of a quality which still barely remains, but which nevertheless considers itself "capable of planning a landscape".

 

Only the booklet outlining it is now available on the town's website. There is no indication that the results of my research have been incorporated into the booklet, nor is there any indication of the source.

 

At a meeting held for the residents of the town, some of them pointed out problems with the plan, but the two architects said: "This is just a rough draft. But the two architects only said, "This is just a rough draft, we will consult with experts to deal with your points in the future".

 

I don't see the necessity for Mashiko town to make a "Mashiko Town Landscape Plan" now, as the town has not taken any measures based on the Landscape Law so far. Moreover, in the first place, the town has not carried out any research on the ecology and biodiversity of its territory.

As a trustee and an expert, I feel responsible for the town to lose the results of the ecological survey of the landscape in Mashiko, which was conducted with taxpayers' money, with the cooperation of 83 people who participated in the interviews, and through the interim report meetings with 522 people in 13 districts. We have submitted opinions, questions, petitions and requests to the town and the town council.

 

In addition to myself, about 10 other townspeople have been lobbying the town to examine and reconsider the "Mashiko Landscape Plan".

We will continue to urge the town to do so.

 

Postscript:

For the past year and a half, the spread of COVID-19 has left many people in a precarious situation, both in terms of health and finances. In such a situation, if there is a project that combines the management and maintenance of farmland and forests, unemployment countermeasures, creation of employment opportunities, and succession training, there will be many people who will be helped by getting jobs, and there will also be many people who will be helped by securing ecological services through the work of these people. This is what I thought and proposed in my opinion letter at the time of the petition.