2020/09/20

市民科学に基づく環境自治の探究: 松戸市矢切地区における鳥類調査を例として  An exploration of environmental autonomy based on citizen science: A case study of bird surveys in Yagiri area of Matsudo City

 

2020/09/20

日本景観生態学会学術大会発表スライド
Presentation-slides of the 2020 General Meeting of the Japan Association for Landscape Ecology


 千葉県松戸市矢切地区で進む大型物流拠点計画から、歴史ある、そして現代においては新たにさまざまな環境便益を人間にもたらすことになった面積約100haの耕地を守ろうとする方々がいます。

 この方々からの依頼を受けて、耕地ひいては地区が持つ環境価値、人間の安全保障に対する貢献を検討する研究奉仕活動を2019年秋から始めました。

 その結果の一つを日本景観生態学会第30回大会で発表しましたので、市民と市に利用いただけるよう発表要旨とスライドショーを公開します。
 

 研究計画に助言いただいた鎌田磨人・徳島大学教授,鳥類調査の方法と結果の検討について協力いただいた日本野鳥の会栃木県支部の遠藤孝一氏,調査と議論に協力いただいた矢切の耕地を未来につなげる会の方々に深謝いたします。

 以下、発表要旨本文とスライドを載せます。



目的

 環境自治をめざす上で、市民科学は重要である。市民による鳥類調査を内容とする松戸市地域環境調査事業は、市民科学の普及に注力した地方自治の好例と目せる。本研究は、同事業を事例とした市民科学の発展とこれに基づく環境自治のあり方の探究を目的とする。

 

背景

 矢切地区は千葉県北西部の松戸市に位置し、江戸川左岸に接する低地上に「矢切の耕地」 (面積約100ha) を擁する。低地に面した台地斜面の樹林は、特別緑地保全地区に指定される。
 当地では、2018年より民間事業として耕地の約15haを取得し物流センターを建設する計画が進み、対して市民団体「矢切の耕地を未来につなげる会」発足などの動きが起きている。

鳥類調査をもとにした矢切地区の環境の自然度の検討方法

 地域環境調査を含む既存資料の勘合と踏査をもとに、矢切地区の環境の自然度を簡易に検討する。さらに、観察された鳥類各種が一般的に必要とする生息環境の矢切地区における分布状況を確認し、当地区の環境がこれらの鳥類の定着を支える条件について考査する。

 

検討結果

 地域環境調査により、当地区で平成30年度に確認された鳥類は64種であった。このうち、環境指標 (日本鳥類保護連盟) に指定された鳥類は28種で、合計点81、環境度B (81点以上) となった。環境度B以上は市内で3地区あった。また、21種は「千葉県レッドリスト 2019年改訂版」で保護生物とされ、同リストに指定された鳥類 (116種) の約18.1%を占めた。

 

検討結果の考査

 上記の結果から、矢切地区の環境の自然度は、首都圏に位置する都市域の一部としては比較的高いと見なせる。鳥類各種に必要な生息環境の単位として、当地区には河川、河川敷、草地、畑地、湿地、水田、住宅地、樹林周辺、樹林の9類型があり、江戸川から耕地、斜面林、台地へ連続することは、その一理由と考えられる。

 

考察・展望: 市民科学に基づく環境自治をめざして
 市民による環境調査の精度と可能性の検証は、市民科学の発展に結びつく。ただし、市民が「住まい周辺の環境状況を自ら調査」し、「同じ目標を持って地域独自の環境づくりを始める」ことの志向から市の環境計画に位置づけられた本調査に基づく「地域独自の環境づくり」の実現手法は未策定で、今後はその開発が市と市民、市民科学を支える研究者に期待される。

 

 

 

 

 










 














































2020/06/28

社会の側から見た地理学の課題と魅力 The challenges and attractions of geography from a social perspective




 2020年6月27日に東北地理学会有志「地理必修化を東北から考える」実行委員会の主催、東北地理学会の後援により開催された同名のオンライン勉強会に、私は主催者 (企画補助、視覚伝達計画を担当) 、コメンテイターとして参加しました。

 コメントは、時間を10分とし、スライド14点を用いて行いました。その準備として自分の考えを整理するために書いた小論を、参考として勉強会参加者に提供しています。同じ文章を、本ブログでも公開します。文章の下に、スライドも掲載しました。

 また、粗削りな拙稿、小論ですが、PDFを researchmap でダウンロードいただけるようにもしました。こうした議論が活発に行われてゆくよう願ってのことです。

 それでは、以下の文章とスライドをご笑覧ください。





I はじめに
 

 学問の専門分化は、分析の上に総合を図る意図からはずれ、社会問題に対する人々の認識を断片化させているように発表者 (以降「私」と書きます) は受け止めています。そのことは、数値や論理に厳格に表わせる対象を主に扱う人々と、数値や論理に表せない感情などを掬い落とすまいとする人々との間に対立や分断を生み出す一因になっているとも考えています。

 しかし、自分が生きる世界の成り立ちを知り1) 、そこから自己や他者の生き方と人間、社会、自然、世界の関係を確かめ、よりよく結ぼうとすることにつなぎ得る自然・社会・人文地理学の総合には、上記の学問が専門分化した現状の改善にとっての大きな可能性が感じられます。ただし、自然・社会・人文地理学の総合がいかに成るのかが課題であり、魅力であるとも思われます。

 ここでは、私が職業とする環境デザイン2) を例に挙げて、社会の側から見た地理学の課題と魅力について考えてみることにします。


II 環境デザインから見た地理学

 私の職業は、環境デザインといいます。デザインは、よくそう思われているようにものや環境のかたちを新しくつくりかえるだけのことではなく、本当に人間のためになるものや環境をつくりだすことです。本当に人間のためになる環境のデザインは、生態系から便益を得続けながら健康的な人間生活と持続可能な社会を実現することを必ず目的にしなければならないと考えます3) 。しかし、この日本で、い意味では造や土木、都市画、建を含んだ境のデザインは、多くの合徹底してそう行われてはいないといえます。境のデザインに携わる人々の多くは、どのような境の外がつくりだせるかということに強く関心を向けがちにえます。

 私はその理由を、一つには境のデザインに携わる家が、生系から便益を得けることについて断片的にしか知を持っていないからだと考えます。そのために、新しい境の外が加わることになるある地域 (ここでは便宜的に地球の表面のあるをこう呼びます) 全体の外、景の全体的ではなく部分的、表面的な理解に自身の造形感を合わせて、生系から便益が得けられない、したがって持可能ではなく本当に人のためになるとはいえない境の的形象の操作を行ってそれがデザインと解し、がつけずにいるのだと想像しています。

 生系から得ている便益について、一般を当てはめてわかったつもりになり解するのでなく地域的事を知るためには、地域境の造を理解しようとすることが欠かせません。地域境の造は、地域の空時間の内にある地地形、候、人の土地利用の影も含めた生系、人の土地利用に影を及ぼす経済社会、地域共同体としての人間関係、文化などの体としてあります。そして、地学や候学、生学、人の土地利用にかかわる建工学、学、林学、経済学、社会学、民俗学、宗教学、文化学といった学の群がありますが、これらが「地域の空時間の内にある」こと、およびこれらが相互に関係していることを前提として、何かの分析を中心におきながらその何かとそれを取りく空時間、その他の地域境の成因群との関係合的、全体的に探究しようという営みが地理学であると、私は考えています。


III 職業地理の社会貢献の例

 一つの参考例を挙げます。スペインのカタルーニャ自治州における景観政策は、2005年制定の州法「景観の保護・管理・整備に関する法」を根拠として、従来は自然保護、文化遺産保護、都市整備などに関してそれぞれの制度に則して個別に行われていた景観政策を総合的に改善し、自治州全域を対象とした地域計画に結びつける先進的なものです4) 。そして、そのために開発された政策手法が「景カタログ」で、州の外郭体として置された景観観院がその作成方法を開発し、同カタログは実現しました5) 。景観観院は地理学研究者を所とする組織で、作は彼らを中心に大学の地理学研究部、カタルニャ地理会、および境デザイン、建、都市画などの関連諸分野の研究者の力を得て施されています。 

 このことは、「建学などの工学系分野が得意とする的形象ではなく、自然境を基とする土地利用の履や人への意味づけを基本におく」景の理解にもとづく、地理学の景政策への献の例であるとして、学術報告が行われています6)

 環境デザインは、地域の文脈に則して行うものとされます。しかし、地域の文脈は私が上に挙げた地域環境の構造に通じる意味を持つのだと思うのですが、実際の環境デザインでは地域環境の成因群を大まかに調べ、成因のいくつかを主に環境の視覚的形象の操作の意味づけに用いることが普通です。地域環境の成因のいくつかは、地域の文脈そのものではなく文脈をつくる語彙のいくつかに等しいと考えられます。

 そのようなことに気づき、私は環境デザインの中の良心的な方法に生態学や民俗学、地理学、社会学などの調査方法を足し合わせながら、地域環境の構造を理解するための方法をつくってきました。そして、これらの学問の分析対象の関係を空間、時間の中で見ていくことは、全体として地理学といえると考えるようになり、日本地理学会、東北地理学会に所属して地理について初めてしっかり学ぶことにしました。今は、環境デザインは地理学、あるいはドイツ地理学を起源とする景観生態学の研究作業の一過程であり、技術行使の後での積極的懐疑、省察の結果を研究に還元すべきであると、自分の考えを整理しています。


IV 東日本大震災にかかわる省察
 
 たとえば、環境デザイン、すなわち本当に人間のためになる環境のデザインの中では、防災・減災を考えることもすべきです。ただし、生態系から便益を得続けられる防災・減災の手段には、東日本大震災復旧・復興事業によって各地の海岸の汀線付近に数十年から百数十年に一回程度の発生頻度と津波波力を想定して防潮堤を整備したようなことは含まれません。

 津波減勢の図れる前浜を残せば、風や波による物質移送が自然に保たれて砂浜や干潟・湿地の生態系が保全され、生物生産が健全と成り、食料や医薬原料の自給率が向上でき、干潟・湿地での生物作用・物理的作用による水質浄化機能がはたらきます7)

 しかしながら、これらの生態系から得られる便益は、防潮堤整備による汀線、干潟・湿地などの環境小領域の消失に伴い、地域社会ひいては人間社会全体にとっての外部不経済として損ねられています。また、住民間に残る歴史的な抑圧/被抑圧的関係の解消がめざされないまま合意形成が進められた例も、私は津波被災地支援活動に際して見てきています。


V 結び

 こうした問題のいくつかが見落とされるのは、計画担当者や助言役として参画する有識者らが、地域環境の成因の分析を専ら行い (分析結果が総合されることではじめて地域環境全体の理解が進みます) 、またはその上に技術行使を行っているからで8) 、当事者たちがこの問題を認識できないのは、地域に関した断片的な知識しか持たないからだと受け止めます。

 このことを解決するためには、上記の理由から地理学的に地域環境の成因、成因間の関係を調査し、構造の理解を図ること9) が必要だと、私は考えています。



1)   ランドスケープアーキテクト長谷川浩己氏が発表者との1999年の対話に際して述べた「 (ランドスケープアーキテクチャー、環境デザインを通して) 世界の成り立ちが知りたい」「世界の成り立ちに係りたい」との発言から、発表者は注記した箇所に書いた内容についての着想を得た。長谷川浩己・山崎亮編著『つくること、つくらないこと』(学芸出版社, 2012) 27-38頁所収の上記変著者および発表者による鼎談記事の冒頭に、長谷川氏による上記対話に関した回想が載る。
http://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761512958/

2) 廣瀬俊介「オルムステッドがめざした社会改革」『テキスト ランドスケープデザインの歴史』武田史朗, 山﨑亮, 長濱伸貴編著, 学芸出版社, 2010, 25
http://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761531874/

3) 廣瀬俊介「風土形成の一環となる環境デザインについて: 人文学における研究成果の参照による風土概念検討を通して」『景観生態学』21 (1) , 日本景観生態学会, 2016, 15-21
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jale/21/1/21_15/_article/-char/ja/

4) 齊藤由香・竹中克行「景観をつくる人々」『人文地理学への招待』竹中克行編著, ミネルヴァ書房, 2015, 47-64
https://www.minervashobo.co.jp/book/b190336.html

5) 齊藤由香「スペイン・カタルーニャ自治州における景観政策の新展開−『景観目録』の作成に着目して」『金城学院大学論集 社会科学編』7 (2) , 金城学院大学論集委員会編, 金城学院大学, 2011, 13-31
https://kinjo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=381&item_no=1&page_id=13&block_id=17

6) 竹中克行「スペイン・カタルーニャ自治州のランドスケープ政策の展開−ランドスケープへの関心と政策の地理学的基盤」『2020年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集』日本地理学会, 2020, セッションID 731
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2020s/0/2020s_268/_article/-char/ja

7) 廣瀬俊介「地理学を生かしたランドスケイプデザイン #4−東日本大震災津波被災地小泉の再生試案 第二報」『2015年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集』日本地理学会, 2015, セッションID 715
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2015s/0/2015s_100147/_article/-char/ja

8) 技術行使を総合的研究の一過程として明確に位置づけ直し、技術行使時・後の積極的懐疑と省察を研究の精度向上に資するべきとの発表者の考えを表した拙稿を紹介します。廣瀬俊介「福島県浪江町における風土を考慮した道路環境デザイン」『景観生態学』21 (1) , 日本景観生態学会, 2016, 23-28
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jale/21/1/21_23/_article/-char/ja

9) 米国のランドスケープアーキテクトIan L. Mcharg (イアン L.マクハーグ) の著書 “Design with Nature” (New York, American Museum of Natural History, 1969.) に載る地域環境情報を積層しての総合的考察方法 “layer cake model” を、発表者は参考にしてきています。この方法は、GISに展開されてもいます。

国立国会図書館サーチ|イアン L.マクハーグ『デザイン・ウィズ・ネーチャー』下河辺淳・川瀬篤美監訳, インターナショナルランゲージアンドカルチャーセンター訳, 集文社, 1994年
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002358110-00





参照: 廣瀬俊介, 東北風景ノート「北方遊水池(大柏川第一調節池緑地)の基本設計過程と現在」2013年 

    http://shunsukehirose.blogspot.com/2013/04/blog-post.html


参照: 東北風景ノート「2015年日本地理学会春季学術大会発表資料『地理学を生かしたランドスケイプデザイン #4 − 東日本大震災津波被災地小泉の再生試案 第二報』」

    http://shunsukehirose.blogspot.com/2015/03/4-geography-based-landscape-design-4.html

参照: 廣瀬俊介, 東北風景ノート「地域の文理融合研究について: 福島県三島町早戸地区での取組みを事例に」2020年
    http://shunsukehirose.blogspot.com/2020/01/thought-on-holistic-approach-to.html