2020/06/28

社会の側から見た地理学の課題と魅力 The challenges and attractions of geography from a social perspective




 2020年6月27日に東北地理学会有志「地理必修化を東北から考える」実行委員会の主催、東北地理学会の後援により開催された同名のオンライン勉強会に、私は主催者 (企画補助、視覚伝達計画を担当) 、コメンテイターとして参加しました。

 コメントは、時間を10分とし、スライド14点を用いて行いました。その準備として自分の考えを整理するために書いた小論を、参考として勉強会参加者に提供しています。同じ文章を、本ブログでも公開します。文章の下に、スライドも掲載しました。

 また、粗削りな拙稿、小論ですが、PDFを researchmap で公開してもいます (ダウンロード可能です) 。こうした議論が活発に行われてゆくよう願ってのことです。

 それでは、以下の文章とスライドをご笑覧ください。





I はじめに
 

 学問の専門分化は、分析の上に総合を図る意図からはずれ、社会問題に対する人々の認識を断片化させているように発表者 (以降「私」と書きます) は受け止めています。そのことは、数値や論理に厳格に表わせる対象を主に扱う人々と、数値や論理に表せない感情などを掬い落とすまいとする人々との間に対立や分断を生み出す一因になっているとも考えています。

 しかし、自分が生きる世界の成り立ちを知り1) 、そこから自己や他者の生き方と人間、社会、自然、世界の関係を確かめ、よりよく結ぼうとすることにつなぎ得る自然・社会・人文地理学の総合には、上記の学問が専門分化した現状の改善にとっての大きな可能性が感じられます。ただし、自然・社会・人文地理学の総合がいかに成るのかが課題であり、魅力であるとも思われます。

 ここでは、私が職業とする環境デザイン2) を例に挙げて、社会の側から見た地理学の課題と魅力について考えてみることにします。


II 環境デザインから見た地理学

 私の職業は、環境デザインといいます。デザインは、よくそう思われているようにものや環境のかたちを新しくつくりかえるだけのことではなく、本当に人間のためになるものや環境をつくりだすことです。本当に人間のためになる環境のデザインは、生態系から便益を得続けながら健康的な人間生活と持続可能な社会を実現することを必ず目的にしなければならないと考えます3) 。しかし、この日本で、い意味では造や土木、都市画、建を含んだ境のデザインは、多くの合徹底してそう行われてはいないといえます。境のデザインに携わる人々の多くは、どのような境の外がつくりだせるかということに強く関心を向けがちにえます。

 私はその理由を、一つには境のデザインに携わる家が、生系から便益を得けることについて断片的にしか知を持っていないからだと考えます。そのために、新しい境の外が加わることになるある地域 (ここでは便宜的に地球の表面のあるをこう呼びます) 全体の外、景の全体的ではなく部分的、表面的な理解に自身の造形感を合わせて、生系から便益が得けられない、したがって持可能ではなく本当に人のためになるとはいえない境の的形象の操作を行ってそれがデザインと解し、がつけずにいるのだと想像しています。

 生系から得ている便益について、一般を当てはめてわかったつもりになり解するのでなく地域的事を知るためには、地域境の造を理解しようとすることが欠かせません。地域境の造は、地域の空時間の内にある地地形、候、人の土地利用の影も含めた生系、人の土地利用に影を及ぼす経済社会、地域共同体としての人間関係、文化などの体としてあります。そして、地学や候学、生学、人の土地利用にかかわる建工学、学、林学、経済学、社会学、民俗学、宗教学、文化学といった学の群がありますが、これらが「地域の空時間の内にある」こと、およびこれらが相互に関係していることを前提として、何かの分析を中心におきながらその何かとそれを取りく空時間、その他の地域境の成因群との関係合的、全体的に探究しようという営みが地理学であると、私は考えています。


III 職業地理の社会貢献の例

 一つの参考例を挙げます。スペインのカタルーニャ自治州における景観政策は、2005年制定の州法「景観の保護・管理・整備に関する法」を根拠として、従来は自然保護、文化遺産保護、都市整備などに関してそれぞれの制度に則して個別に行われていた景観政策を総合的に改善し、自治州全域を対象とした地域計画に結びつける先進的なものです4) 。そして、そのために開発された政策手法が「景カタログ」で、州の外郭体として置された景観観院がその作成方法を開発し、同カタログは実現しました5) 。景観観院は地理学研究者を所とする組織で、作は彼らを中心に大学の地理学研究部、カタルニャ地理会、および境デザイン、建、都市画などの関連諸分野の研究者の力を得て施されています。 

 このことは、「建学などの工学系分野が得意とする的形象ではなく、自然境を基とする土地利用の履や人への意味づけを基本におく」景の理解にもとづく、地理学の景政策への献の例であるとして、学術報告が行われています6)

 環境デザインは、地域の文脈に則して行うものとされます。しかし、地域の文脈は私が上に挙げた地域環境の構造に通じる意味を持つのだと思うのですが、実際の環境デザインでは地域環境の成因群を大まかに調べ、成因のいくつかを主に環境の視覚的形象の操作の意味づけに用いることが普通です。地域環境の成因のいくつかは、地域の文脈そのものではなく文脈をつくる語彙のいくつかに等しいと考えられます。

 そのようなことに気づき、私は環境デザインの中の良心的な方法に生態学や民俗学、地理学、社会学などの調査方法を足し合わせながら、地域環境の構造を理解するための方法をつくってきました。そして、これらの学問の分析対象の関係を空間、時間の中で見ていくことは、全体として地理学といえると考えるようになり、日本地理学会、東北地理学会に所属して地理について初めてしっかり学ぶことにしました。今は、環境デザインは地理学、あるいはドイツ地理学を起源とする景観生態学の研究作業の一過程であり、技術行使の後での積極的懐疑、省察の結果を研究に還元すべきであると、自分の考えを整理しています。


IV 東日本大震災にかかわる省察
 
 たとえば、環境デザイン、すなわち本当に人間のためになる環境のデザインの中では、防災・減災を考えることもすべきです。ただし、生態系から便益を得続けられる防災・減災の手段には、東日本大震災復旧・復興事業によって各地の海岸の汀線付近に数十年から百数十年に一回程度の発生頻度と津波波力を想定して防潮堤を整備したようなことは含まれません。

 津波減勢の図れる前浜を残せば、風や波による物質移送が自然に保たれて砂浜や干潟・湿地の生態系が保全され、生物生産が健全と成り、食料や医薬原料の自給率が向上でき、干潟・湿地での生物作用・物理的作用による水質浄化機能がはたらきます7)

 しかしながら、これらの生態系から得られる便益は、防潮堤整備による汀線、干潟・湿地などの環境小領域の消失に伴い、地域社会ひいては人間社会全体にとっての外部不経済として損ねられています。また、住民間に残る歴史的な抑圧/被抑圧的関係の解消がめざされないまま合意形成が進められた例も、私は津波被災地支援活動に際して見てきています。


V 結び

 こうした問題のいくつかが見落とされるのは、計画担当者や助言役として参画する有識者らが、地域環境の成因の分析を専ら行い (分析結果が総合されることではじめて地域環境全体の理解が進みます) 、またはその上に技術行使を行っているからで8) 、当事者たちがこの問題を認識できないのは、地域に関した断片的な知識しか持たないからだと受け止めます。

 このことを解決するためには、上記の理由から地理学的に地域環境の成因、成因間の関係を調査し、構造の理解を図ること9) が必要だと、私は考えています。



1)   ランドスケープアーキテクト長谷川浩己氏が発表者との1999年の対話に際して述べた「 (ランドスケープアーキテクチャー、環境デザインを通して) 世界の成り立ちが知りたい」「世界の成り立ちに係りたい」との発言から、発表者は注記した箇所に書いた内容についての着想を得た。長谷川浩己・山崎亮編著『つくること、つくらないこと』(学芸出版社, 2012) 27-38頁所収の上記変著者および発表者による鼎談記事の冒頭に、長谷川氏による上記対話に関した回想が載る。
http://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761512958/

2) 廣瀬俊介「オルムステッドがめざした社会改革」『テキスト ランドスケープデザインの歴史』武田史朗, 山﨑亮, 長濱伸貴編著, 学芸出版社, 2010, 25
http://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761531874/

3) 廣瀬俊介「風土形成の一環となる環境デザインについて: 人文学における研究成果の参照による風土概念検討を通して」『景観生態学』21 (1) , 日本景観生態学会, 2016, 15-21
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jale/21/1/21_15/_article/-char/ja/

4) 齊藤由香・竹中克行「景観をつくる人々」『人文地理学への招待』竹中克行編著, ミネルヴァ書房, 2015, 47-64
https://www.minervashobo.co.jp/book/b190336.html

5) 齊藤由香「スペイン・カタルーニャ自治州における景観政策の新展開−『景観目録』の作成に着目して」『金城学院大学論集 社会科学編』7 (2) , 金城学院大学論集委員会編, 金城学院大学, 2011, 13-31
https://kinjo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=381&item_no=1&page_id=13&block_id=17

6) 竹中克行「スペイン・カタルーニャ自治州のランドスケープ政策の展開−ランドスケープへの関心と政策の地理学的基盤」『2020年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集』日本地理学会, 2020, セッションID 731
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2020s/0/2020s_268/_article/-char/ja

7) 廣瀬俊介「地理学を生かしたランドスケイプデザイン #4−東日本大震災津波被災地小泉の再生試案 第二報」『2015年度日本地理学会春季学術大会発表要旨集』日本地理学会, 2015, セッションID 715
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2015s/0/2015s_100147/_article/-char/ja

8) 技術行使を総合的研究の一過程として明確に位置づけ直し、技術行使時・後の積極的懐疑と省察を研究の精度向上に資するべきとの発表者の考えを表した拙稿を紹介します。廣瀬俊介「福島県浪江町における風土を考慮した道路環境デザイン」『景観生態学』21 (1) , 日本景観生態学会, 2016, 23-28
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jale/21/1/21_23/_article/-char/ja

9) 米国のランドスケープアーキテクトIan L. Mcharg (イアン L.マクハーグ) の著書 “Design with Nature” (New York, American Museum of Natural History, 1969.) に載る地域環境情報を積層しての総合的考察方法 “layer cake model” を、発表者は参考にしてきています。この方法は、GISに展開されてもいます。

国立国会図書館サーチ|イアン L.マクハーグ『デザイン・ウィズ・ネーチャー』下河辺淳・川瀬篤美監訳, インターナショナルランゲージアンドカルチャーセンター訳, 集文社, 1994年
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002358110-00





参照: 廣瀬俊介, 東北風景ノート「北方遊水池(大柏川第一調節池緑地)の基本設計過程と現在」2013年 

    http://shunsukehirose.blogspot.com/2013/04/blog-post.html


参照: 東北風景ノート「2015年日本地理学会春季学術大会発表資料『地理学を生かしたランドスケイプデザイン #4 − 東日本大震災津波被災地小泉の再生試案 第二報』」

    http://shunsukehirose.blogspot.com/2015/03/4-geography-based-landscape-design-4.html

参照: 廣瀬俊介, 東北風景ノート「地域の文理融合研究について: 福島県三島町早戸地区での取組みを事例に」2020年
    http://shunsukehirose.blogspot.com/2020/01/thought-on-holistic-approach-to.html

















2020/06/08

種苗法改正案の不明点を整理する Sort out the unclear points in the proposed amendments to the Plant Variety Protection and Seed Act





はじめに


 風景は、風土の姿と考えられる。風土は、地域の自然に人々が暮らしや生業を通してはたらきかけながら、その全体としてかたちづくられ、共に観るに至った、人々が共に生きるいわば地域世界と考えられる。


 農村や漁村では、人々が食料を生産・採種する農地や浜・磯・漁港、生産・採種の根本となる物質循環、生態系保全および生業に用いる具の生産地となる山林・河川などが、風土そして風景を主に成している。



遠野盆地。高清水展望台より俯瞰。岩手県遠野市松崎町、2018/06/29


 2020年の第201回国会 (会期: 2020/01/20 − 06/17) に提出された「種苗法の一部を改正する法律案」01) の同国会での成立は、新型コロナウイルス感染拡大に対応した2020年度第二次補正予算案などに割く審議時間の確保の優先から、与党が見送ることになると報じられている (2020/06/07 現在) 。

 この改正案が、地域の農村と農業に影響を及ぼせば、その影響は地域の持続可能性に及び、地域の風土、風景にも及ぶことになる。そのため、風土形成の一環となる環境デザインを志向する研究者・技術者として種苗法改正案について知ることは欠かせないと考え、同法と改正案の理解を試みた。

 作業の結果は、1. 種苗法改正案の不明点、2. 種苗法成立の背景を確認する…の2項目にまとめた。以下にそれを載せる。


出典:
01) 内閣法制局|種苗法の一部を改正する法律案






1. 種苗法改正案の不明点


 農林水産省は、種苗法改正の目的を、新品種の国外流出を防ぐ目的から「より実効的に新品種を保護する法改正が必要」としている01)

 この改正では、新品種を育種して品種登録した育成者の権利が強化される。ただし、新品種の国外流出は、国外での品種登録を進めない限り防げないとの見方がある02)

 他方、品種登録がされた登録品種の自家増殖は、法改正による育成者権の強化によってこれまで農家が自由に行えたものが許諾制となり、農家にとっては手続きと支出が増えて制約される。

 育成者権の強化は、2017年3月の種苗法施行規則改定とも関係する。同法第二十一条では、第二項で基本的に登録品種の農家による自由な自家増殖を認めながら、第三項で栄養繁殖による自家増殖を制限してきた03) 。その対象品目は、2016年まで82種であった。しかし、種苗法施行規則改訂に際して第十六条で登録品種のうち自家増殖に許諾を必要とする品目を決めて以来大きく増やされ04) 、2019年には387種に達している。「農家の不安はここに由来する05)

 このことについて、農林水産省は、「種苗法上は、農業者は一定の要件の下に自家増殖が認められているが、植物の新品種に関する国際条約 (UPOV91年条約) 上は、農業者の自家増殖は原則禁止されており、EU等の主要先進国の制度とも乖離している状況にある」「このため、自家増殖については、植物の種類ごとの実態を十分に勘案した上で、生産現場に影響のないものから順次していくこととする」と述べている06)

 しかしながら、農林水産省は、一般品種 (「在来種、品種登録がされたことがない品種、品種登録期間が切れた品種」07) は法改正されても「現在利用されている品種のほとんどは一般品種であり、今後も自由に自家増殖ができます」と説明している08) 。その一方で、同省資料の一覧表に記載される主な一般品種にはF1品種 (一世代に限り、形が揃い安定した量で収穫が得られる) が並ぶ。トマトでいえば、「桃太郎」「りんか409」「アイコ」の3種ともF1品種であるが09) 、その欄の下に「現在も、種苗法が改正されても自家増殖を含め利用は制限されない」とある。そして、同じ表には「我が国の農産物の品種」において一般品種が占める割合が野菜の場合91%とある10)

(廣瀬見解)
 ただし、45県の1,055経営体を対象としたアンケート調査では、登録品種のうち野菜の自家増殖を行う割合が74.5%を占めていた11) 。これらの値の比較検討は行えないが、「現在利用されている品種のほとんどは一般品種」であるとしてもその多くがF1品種であれば自家増殖自体が行えず、上記アンケート調査で登録品種野菜の自家増殖を行っていると回答した農家が法改正後も自家増殖を続けるならば、手続きと支出が増すことになる。


 農林水産省は、「種苗法において保護される品種は、新たに開発され、登録された品種」に限るとしている12) 。そして、種苗法改正案の第三条に「品種登録の出願を前に日本国内又は外国において公然知られた他の品種と特性の全部又は一部によって明確に区別されること」 とある13) 。この「特性」は、第二条 (改正案での変更はなし) で、「重要な形質に係る特性 (以下単に『特性』という) 」と書かれる。また、第四条は、改正案での内容の変更はなく (仮名から漢字への書き換えがあるのみ) 、「品種登録は、出願品種の種苗又は収穫物が、日本国内において品種登録出願の日から一年遡った日前に、外国においては当該品種登録出願の日から余年遡った日前に、それぞれ業として譲渡されていた場合には、受けることができない」としている14)

(廣瀬疑問)
 以上の条文に対して、「公然知られた」「重要な形質に係る特性」の判断の根拠が不明確ではないかとの疑問を持つ。一般品種のうち「品種登録期間が切れた品種」は、行政記録があるが、残る「在来種」「品種登録がされたことがない品種」は、すべて把握できるのか。できなければ、「公然知られた」「重要な形質に係る特性」の判断の根拠が揃わないことにならないか。それにもかかわらず、種苗法改正案の第二十一条第二項に「登録品種、登録品種と特性により明確に区別されない品種」の「種苗を生産する行為」については、育成者権の効力が及ぶと規定される15)


 「登録品種と特性により明確に区別されない品種」とは何か。そして、特性が明確に区分できない品種があると予めわかっていればどうしてその品種は登録できるのか。また、その程度の既存品目の調査で登録ができるならば、「公然知られた」品種の把握も不十分に行われる可能性がないか。そうなると、著名な伝統野菜のように広く知られることなく地域で継承されてきた品種が「公然知られ」ないものと位置づけられ、それに類する特性を持つ新型品種が登録された後、地域で継承されてきた品種にも「登録品種と特性により明確に区別されない品種」として育種者権が及ぶことにされないか。


出典:
01) 農林水産省|種苗法の一部を改正する法律案について|よくある質問
   https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html


02) 「やっぱり『農家の自家増殖、原則禁止』に異議あり!」『現代農業』2018年4月号、
   農山漁村文化協会、334-347頁
   http://www.ruralnet.or.jp/s_igi/image/gn1804_01.pdf 

03) 種苗法|総務省|電子政府
   https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410AC0000000083

04) 種苗法施行規則 (平成十年農林水産省令第八十三号)|総務省|電子政府
   https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410M50000200083


06) 農林水産省食料産業局「農業者の自家増殖に育成者権を及ぼす植物種類の追加について」
   2017年
   https://www.maff.go.jp/j/council/sizai/syubyou/17/attach/pdf/index-35.pdf

07) 農林水産省|種苗法の一部を改正する法律案について

08) 農林水産省|種苗法の一部を改正する法律案について|よくある質問

09) 農林水産省|主な登録品種と一般品種の例
   https://www.maff.go.jp/j/shokusan/attach/pdf/shubyoho-7.pdf

10) 同上

11) 農林水産省|農業者の自家増殖検討会配布資料|第2回 農業者の自家増殖に関する検討会|
   資料2 平成27年度自家増殖に関する生産者アンケート調査結果について
   https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/b_syokubut/jikazou.html

12) 農林水産省|種苗法の一部を改正する法律案について

13) 農林水産省|第201回国会(令和2年常会)提出法律案|種苗法の一部を改正する法律案|
   新旧対象条文
   https://www.maff.go.jp/j/law/bill/201/attach/pdf/index-27.pdf

14) 種苗法|総務省|電子政府

15) 同上




2. 種苗法成立の背景を確認する


 『現代農業』2018年9月号に掲載された松延洋平・元農林水産省種苗課長へのインタヴュー記事内容を以下に要約する16)

 種苗法は、「流通する種苗を取り締まる『指定種苗制度』と、新品種保護のための『品種登録制度』」の二制度を主として、1947年成立の農産種苗法に拠らず一から制度設計をしたものである。

 (1952年、農産種苗法から分離独立するかたちで、米麦など穀物の安定生産に寄与する種子法が成立。)

 農家によるしばしば育種にも発展していた自家増殖、国や都道府県の研究者の育種への努力にも応えたいと、栽培植物の知的財産権を認められるように種苗法を起案する。

 それは、省内で一度保留されたが、当時の若手民間育種家の陳情をきっかけとして、1978年に成立する。ただし、上記の通り農家の自家増殖を制限する意図はなく、むしろ育種の未来のために肯定した。しかし、制定から20年後の1998年から、当初は徐々にではあったが、農家の自家増殖が制限されるようになっていった。

(廣瀬意見)
 日本は、前述の農業者の自家増殖を原則禁止する内容を含む (それについては後述する「農業者の権利」に対応した任意例外規定も設けられる) 「植物の新品種の保護に関する国際条約」 (UPOV91年条約) 17) と、「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」 (略称: 食料・農業植物遺伝資源条約 / ITPGR条約) 18) に加入する。

 ITPGR条約では、「農業者が『食料及び農業のための植物遺伝資源の保全、改良及び提供』について果たしてきた」ことを評価し、「『農業者の権利』としての『植物遺伝資源』へのアクセス権と、『農場で保存されている種子その他の繁殖性の素材の保存、利用、交換及び販売について、並びに食料及び農業のための植物遺伝資源の利用に関する意思決定並びにその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分への参加についてこの条約において認められる権利』を規定する趣旨が明示されている」 19)

 松延氏の談にある「農家によるしばしば育種にも発展していた自家増殖」は、ITPGR条約における「農業者が『食料及び農業のための植物遺伝資源の保全、改良及び提供』について果たしてきた」ことの評価に通じる。それが具体的にどのようなことかについては、同氏の以下の発言を読めば判然としないだろうか。

 「その頃 (1960年代。廣瀬注) の農業は、振り返ってみると、かなり多彩だったと思う。自家採種はもちろん、農家の育種がまだまだ一般的だった。よりいい品種をつくろうというのは、農家の本能としてあったんだな」「広い野菜畑の中からとくにいい株を選抜してタネ採りしたり、果樹の枝変わりを見つけて育てたり、長年かけていい品種をつくる。そんな農家のオヤジが日本中にたくさんいた」「朝夕晩と畑に出て作物を観察してる。これは素晴らしいというのが育つと、近所の農家に配ったりして、場合によっては、タネ屋が来てひとつ譲ってくれとなる。そしてしばらくすると、もう誰が育てた品種かわからなくなってしまうことがある」「ある日、毎日新聞に載った投書が今でも忘れられないよ。自分は奇人変人といわれながらも、長年かけてこれぞという品種をつくり上げた。しかし、名前も何も残らないと嘆く内容だった。たしか、福島県の果樹農家だった」20)

 このようなことが、できるだけ多くの人々に多様な方法で、多様な地域の環境条件の影響を受けながら行われていくことで、「食料及び農業のための植物遺伝資源の保全、改良及び提供」ひいては人間の安全保障が世界の各地域でさまざまに農業にかかわる人々によって分担されながら可能となると考えられる。そのためには、育種家と農家の権利が共に守られる解を導き出すことが肝要となろう。

(廣瀬結論)
 1で種苗法改正案の不明点を挙げたことが適切であれば、それら不明点の解消が求められよう。また、2で成立の背景を確認した改正以前の種苗法の理念は、ITPGR条約や「小農と農村で働く人々の権利に関する国連宣言」21) (日本は棄権) に通じ、地球規模の環境問題や食糧問題の改善に向けて求められる国際社会の協力に臨む上で実際的であると評価できる。


 以上より、法改正に向けた多角的な議論はさらに続けられ、深められるべきであると考えられる。



出典:
16) 「続々『農家の自家増殖、原則禁止』に異議あり! – 種苗法の誕生秘話」『現代農業』

   2018年9月号、農山漁村文化協会
   http://www.ruralnet.or.jp/gn/201809/syubyouhou.htm

17) 経済産業省 特許庁|植物の新品種の保護に関する条約 (UPOV条約1991年法)
   https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/new_varieties_of_plants.pdf

18) 外務省|食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約
   (略称: 食料・農業植物遺伝資源条約)
   https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000011.html

19) 神山前掲書 (出典05に同じ)

20) 出典16に同じ

21) 農林水産省|小農と農村で働く人々の権利に関する国連宣言
   https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000485953.pdf