2024年8月28日付「北羽新報」 (秋田県能代市) への寄稿「旧仁鮒小解体、住空間への懸念—環境デザインからみた影響—」を、同紙のご厚意により紙面の写真と共に掲載します。なお、文章を一部補い、図を2点追加しました。
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私は、旧仁鮒小学校校舎 (写真1) と体育館の文化財としての保存・活用を求める市民の活動に賛同する一人です。東日本大震災津波被災地の復興の参考にと風の松原 (写真2) を二度訪れて以来、能代市の自然、歴史、文化に惹かれるようになり、同小学校のことも知りました。「木都能代」 (写真3) を支えた米代川流域の数ある林産地の中でも森林鉄道と貯木所を擁した歴史があり、今日も仁鮒水沢スギ植物群落保護林が存する仁鮒地区に、樹齢350年の天然秋田杉で建てられた同校舎が残り、築95年に達します。いってみれば、木都の構成資産のいくつもが継承され、はっきりとした地区の個性が保たれることに大きな可能性を感じます。同小学校は、川と集落の大部分を見下ろす段丘の上にもうけられていますので、地区の子供たちが学び育つ場として地区の方々に大切にされてきたことが風景から伝わります。地区の方々が、さまざまに記憶を預けたかけがえのない建物と場所なのであろうことも、です。同小学校とグラウンドが、緊急避難場所に指定されていることも、人々が安全な場所に身を置き、助け合うために理に適っているのではないでしょうか。
写真2 日本海からの強風による飛砂に備えて江戸時代に造林が始められ現在に至る風の松原。2013/08/23
写真3 「旧料亭金勇」(写真左) と「能代市議会議事堂」(同右)。共に国登録有形文化財。2014/07/18
しかし、市は同校舎の解体工事の入札・契約を終えているということです。それが、市民の総意ということであれば、市外に住む私などが口をはさむ余地はありません。ただし、環境デザインを専門とする者として機能的に気になることがあり、問題提起をしたいと思います。
米代川は、南北に伸びる出羽山地や能代断層群を横切って東西に流れています。気象庁の統計では、能代と鷹巣の観測所で共に観測史上10位以内の日最大風速と日最大瞬間風速を記録した風の風向が、西北西、北西、西、南西、南南西と、大きく西方向に集中しています。月別の最多風向は、能代観測所で12月から3月に西北西または西、鷹巣観測所で11月から5月に西南西または南西が占めます。しかし、観測史上10位以内の強風は、両観測所共おおむね季節を問わずに吹いています。
このように、沿岸部では風の松原や近隣の鉄道の防風林・吹雪防止林などにより備えられてきた日本海からの強風が、米代川に刻まれた谷を吹き渡ることに留意する必要があると考えられます (図1) 。
図1 米代川によって東西に刻まれた谷。出典: 国土地理院|地理院地図3D https://maps.gsi.go.jp (廣瀬改変 2024)
この谷は、能代平野を直線状に東へ伸び、太平山地に入ったところで南向きに、ほぼ直角に折れます。仁鮒地区は、ちょうどその先に位置しています (図2) 。
図2 米代川が刻んだ谷が直角に折れた先に仁鮒地区はあり、切石地区を抜けて吹き込む西からの強風への十分な備えが必要と考えられる。出典: 国土地理院|地理院地図3D https://maps.gsi.go.jp (廣瀬改変 2024)
国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」ウェブサイトで見られる1989年9月24日撮影の空中写真では、旧仁鮒小学校の西側にある共同墓地の西縁に帯状の緑地がもうけられていたことが確認できます。これは、西からの風雪への備えであったと推測されます。同じ写真では、集落がつくられた微高地を取り巻くように木々が残されていた様子が窺えます。西向きの木々は主に風雪に、北向きの木々は米代川の氾濫に対応していたものと考えられます。今日の空中写真では、そうした木々は減ったように見えます (図3) 。全国的な状況と同様に、維持管理に手間や費用がかかることからやむを得ず伐られてきたのかもしれません。
図3 1989/09/24 (写真左) と近年に撮影された空中写真を比較する。出典: 国土地理院|地図・空中写真閲覧サービス https://mapps.gsi.go.jp (廣瀬改変 2024) 、国土地理院|地理院地図 https://maps.gsi.go.jp (廣瀬改変 2024)
そのような中で、コの字型の旧仁鮒小学校校舎・体育館と大きな木々は、東側の一帯に暮らす方々にとって、現在も強風が家屋などの建物に直接当たるのを防ぐ機能を果たしていると考えられます。今回、解体されるのは校舎ですが、体育館は校舎の南西側にあり、規模は小さく、後山に寄っていて風除けに効かず、同小学校東側の居住環境の質を変えてしまう可能性があります。
私は、市外にいて調べられる資料を用いながらこう考え、懸念します。実際に地区で暮らされる方々の考えや、現地での調査に携わられてきた気候や防災により詳しい方々の意見を聞き、工事の影響を今一度確認され、関係者間で合意をされた上で事業を実行されることが、より安全で確実です。以上、環境デザインを研究、実践する者として問題提起を行います。 (栃木県益子町・廣瀬俊介)
参照:
1) 林野庁|森林鉄道
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/eizou/sinrin_tetsudou.html2) 林野庁|東北森林管理局|仁鮒水沢スギ希少個体群保護林
https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/hogorin/nibuna_mizusawa.html
3) 国土地理院|地理院地図|地質図-産総研地質調査総合センター
4) 気象庁|過去の気象データ検索|能代・鷹巣
https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php
5) 国土地理院|地図・空中写真閲覧サービス
2024/08/28 北羽新報 紙面
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おわりに、 旧仁鮒小学校の解体をめぐる北羽新報公開記事のリンク (同紙ウェブサイト上で検索。検索ワード「旧仁鮒小」) を共有します。
https://www.hokuu.co.jp/?s=%E6%97%A7%E4%BB%81%E9%AE%92%E5%B0%8F
例として、2024/08/30 現在の上位 (時系列。最近の記事から過去の記事へ) 5件の題と発表日を写します。
能代市の旧仁鮒小解体工事、4040万円で落札 (2024/07/25)
https://www.hokuu.co.jp/?p=20882
能代市監査委員、旧仁鮒小の解体巡る住民監査請求を棄却 (2024/06/22)
https://www.hokuu.co.jp/?p=19854
旧仁鮒小の価値とは 木造建築の専門から4人が講演 (2024/06/02)
https://www.hokuu.co.jp/?p=19197
旧仁鮒小解体工事は不当とする住民監査請求を受理 能代市監査委員 (2024/05/24)
https://www.hokuu.co.jp/?p=18951
旧仁鮒小校舎解体延期、調査を 愛する会が能代市に住民監査請求 (2024/05/15)
https://www.hokuu.co.jp/?p=18718
2024/09/02 追記:
この記事と内容をほぼ同じくする意見書を、これも2024年8月28日付で能代市長に提出しています。以下の同市の制度を利用しました (念のため、お手紙もお送りしています) 。回答を求めるか否か選択ができますので、求めました。
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能代市|市長への手紙 (Eメール)
https://www.city.noshiro.lg.jp/city/koho/shicho/mail/