2020/11/15

風土研究試論: 土祭2015「益子の風土・風景を読み解く」プロジェクトと同町での以降の地域研究を例として An essay of the study on local milieu: In case of the project “Reading Landscapes and the Milieu of Mashiko” in “Hijisai 2015 — Living with the Earth ” festival and subsequent regional research in the town

 

 

 

2020/11/08
日本国際理解教育学会公開検討会発表スライド
Presentation slides of the Public Review Meeting of
the Japan Association for International Education

1.     風土研究の目的

 環境デザインを研究・実践する発表者は、地域の部分となる環境の適切な形成のために地域環境の総合・構造的理解を志向するに至った。そして、人間は環境と物理・社会・心理的に関係を持ち1)、そうした環境像を (日本でならば) 風土と観ることがある点に着目した。そこから環境形成の基礎とする目的で風土研究を行うことを発想し、実行している。

 風土の理解はまた、自然の物質循環、生物生産を保ち地域の持続を可能とする人間活動のあり方を探求することに結びつく。

 

2.     風土の現象学的定義

 薗田稔 (神道学) は、「風土」を次のように定義する。風土は「自然条件に (中略) 人間が生業を通して働きかけた結果である。人間が何世代もかけて自然に働きかけて風土を仕立て、その風土がまた人間を育て上げる」2)

 薗田や『風土』3) を著した和辻哲郎 (哲学) は、風土の考察において現象学を参照している。特にそのなかで提示された「生活世界」概念4) に影響を受け、「風土をそこに住む者の生活世界に即して考える場合 (中略) 気象や地理といった客観的な自然条件としてすまされることではない」5) などの記述がある。

 

3.     研究の実際

 風土研究は、研究対象地の生活者との共同で行うことを基本として、自然・社会・人文科学の総合を志向し、踏査・聞き取り調査・文献調査を組み合わせた調査をもとに都度生活者との情報・意見交換の機会をもうけながら進める。

 栃木県芳賀郡益子町の町域全体を研究対象地とした土祭2015「益子の風土・風景を読み解く」プロジェクトにおいては、過去の小学校区を参考に町域を13地区に分けて調査を実施した。

 

4.     研究成果の地域への還元

 土祭2015に際しては、研究業務委託を受けて風土性調査を実施した。土祭2015公式ウェブサイトで成果は随時紹介され、最終的に全成果が公開された。その他では「風景遠足」6) が企画されて同会期中に三度行われ、以降も栃木県、町教育委員会、町企画課、道の駅ましこ、ヒジノワが一度ずつ主催した7) 。なお、風景遠足各回の実施にあたっては、それぞれの趣意に合わせ、また地域の情況等の変化に伴う環境の変化を確認する意味からも、地域の調査を行う必要があり、発表者による益子町域の風土研究はそれらも機会として継続されている。

 今後は、引き続き (巡検と座学を組み合わせた) 風景遠足として地域研究成果の普及を図る他に、良好な風景を保つ土地利用の補助作業を、地域理解の一環と地域環境保全を兼ねて風景遠足に組み入れられないかと考えている (生業と生活から形成された環境について研究し、生活者と共に知識を生産して地域へ還元するだけでは、生活者の環境への投資や営為に見合わない消費・収奪的関係が残り、公平ではないとの考えに基づく。加えて、生活者の側は人口減少と高齢化によって生業・生活環境の保持が困難になり、物理・社会・心理的な問題を抱えている。そうした利害の調整や公共利益の確保を合わせて可能とする方法を模索している) 。

 

5.     生活者と研究者が共に地域を理解する意義

 地域における生活の知から学問的な知識まで、研究者が生活者から学ぶべきことは多い。生活者による風土、生活世界の共観について知るうえでも、生活者との研究は必須である。また、地域の共通理解があってはじめて地域的な合意形成が図れる面もあると考える。

 家族や地縁共同体における階層構成にもいくつかの意味から注意を要する。近世身分制の明治以降の家制度への変容や日中戦争−太平洋戦争期の町内会設置の影響8) が現在も抑圧/非抑圧の関係に継承されている。人々が自由かつ平等に意見交換できるように、研究者は生活者に構造的説明を試みるべきであると考えられる。

 さらに、発表者は以下に引用する詩の一節から、生活者にとっての地域理解の、上記内容における心理的な面と関係しつつそこからやや離れた面も持つ、また別の意義を思い浮かべる。

 

  束の間の一瞬でさえも

  豊かな過去を持っている

  土曜日の前には自分の金曜日があり

  六月の前には自分の五月がある」9)

 

 地域の理解から生活者の地域の見方がひろがり、日常の質の認識が変わるのであれば、それを支えるためにも風土研究は (本稿項目1の目的以前に) 行われるべきなのではなかろうか? このことを自らへの問いとしたい。

 

注:

1)     廣瀬俊介. 2020. 生活者と研究者が共に地域を構造的に理解する意義と方法について. No. 149: 15-22pp. 山崎農業研究所, 東京.

2)     薗田稔編. 1988. 神道. 372pp. 弘文堂, 東京.

3)     和辻哲郎. 1979. 風土−人間学的考察. 299pp. 岩波文庫.

4)     エトムント フッサール. 1974. ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学. 細谷恒夫・木田元訳. 425pp. 中央公論社, 東京

5)     薗田稔. 1990. 祭りの現象学. 346pp. 弘文堂, 東京.

6)     土祭2015アルバム|土祭風景遠足 http://hijisai.jp/blog/ikiru/fudo-fukei/6754/, 2020113日閲覧

7)     各実施年は栃木県地域振興課 (2016), 町教育委員会 (2017), 道の駅ましこ (2018), 町企画課 (2019), ヒジノワ(2019).

8)     中川剛. 1980. 町内会日本人の自治感覚. 210pp. 中央公論社, 東京.

9)     ヴィスワヴァ シンボルスカ. 1997. 終わりと始まり. 沼野充義訳. 128pp. 未知谷, 東京.