2013/06/10

小泉地区再生試案 − ジオパークとしての津谷川汽水域公園構想 A Proposal for the Koizumi District Revitalization Initiative: Designation of the River Tsuya Estuary as a Geopark − An Alternative to the Construction of a 14.7m-tall Concrete Seawall



2013年6月7日、私は気仙沼市本吉町の浜区多目的集会所にて、標記の題をつけて意見発表を行いました。
これは、同市小泉地区の任意団体「小泉Coolな親父の会」からの依頼を受けて検討した内容を
初めて報告するものでした。

小泉Coolな親父の会:
https://www.facebook.com/cool.oyaji.koizumi



同地区では、防災移転促進事業にもとづいて高台移転への計画が定められています。
そして、津谷川につくられた河谷地形の底となる低地に人は住まず、遠浅の砂浜海岸であるために
港湾も元からありません。


小泉地区 明日を考える会:
http://www.saiseikoizumi.com/



ところが、人が住まず港もない低地へ、宮城県は高さ14.7mの防潮堤を建設する計画を進めました。
一方、当地区の生活者の中には、2011年の東日本大震災で防潮堤や河川護岸が破壊された経験から、
また、低地に護るべきものがなくなったことから防潮堤は建設せず、
その費用を津波発生時の避難に使える道路の建設に当てられないかと考える方々がいました。

津波に遭って自然の海辺や川に戻ろうとしている小泉の環境をそのままにおけば、実際的な災害教育によって
子孫を守れる、さらには他の地区、地方から人々が訪れて同じ災害教育が受けられ、交流ができる…、
その方が従前の工場誘致のような産業振興策よりも当地の特性が生かせ、持続可能な地域経済の再生が図れる…と、
考える方々もいました。

同様のことを考える方々が、気仙沼市市民や、同市に生まれて今は他所で暮らす人々の中にもいました。
それぞれの方々が、防潮堤建設に関した勉強会を開いたり、署名活動を行うなどしてきています。

気仙沼市 防潮堤を勉強する会:
http://seawall.info/index.html

被災地を覆うコンクリート巨大防潮堤の再考を! / Rethink giant concrete seawalls in Japan's tsunami affected area! :
http://www.change.org/ja/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%B3/%E8%A2%AB%E7%81%BD%E5%9C%B0%E3%82%92%E8%A6%86%E3%81%86%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E5%B7%A8%E5%A4%A7%E9%98%B2%E6%BD%AE%E5%A0%A4%E3%81%AE%E5%86%8D%E8%80%83%E3%82%92-rethink-giant-concrete-seawalls-in-japan-s-tsunami-affected-area


私は、持続可能な土地・資源利用の地域的方法探究を旨とする
ランドスケイププランナー/ランドスケイプデザイナーとして、
上記のさまざまな方々が願う「防潮堤なき地域再生」が妥当か、そしてそれはどう実現できて
そこにどのような可能性が見いだされるか、小泉地区を例に検討を試みました。

当地区をつらぬく津谷川の河床勾配は、河口から約4km上流まで3°未満とゆるやかで、
2011年の津波もそこまで遡上しています。
それゆえ、防潮堤と河川護岸で水陸の境界をふさぐと、同年のようにそれらが破壊されなければ、
同規模の津波の遡上距離はさらに長くなるであろうと考えられます。

また、現在の同地区の低地は津谷川の氾濫からかたちづくられていて、
同様に将来の洪水が起こる可能性も想定すべきです。
河川護岸と防潮堤で水陸の境界をふさげば、洪水による破堤時に氾濫した水が低地に流れ、被害が生じます。

加えて、水陸境界の遮断は生物が生きる環境の単調化を導き、生物多様性を損なって、
人間への生態系サーヴィスを減じることに結びつきましょう。
このことは、国が定めた「生物多様性国家戦略」「生物多様性基本法」に背くもので、
生態系サーヴィスの中の生物生産に立脚した食料確保や漁業等の生業の継続を困難にしかねない、
つまりは人間の安全保障を不可能にし得る政策と見なせます。

環境省 生物多様性センター:
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/

津谷川下流域のゆるやかな河床勾配には、津波がさかのぼりやすいことの他に、
海からの塩水が内陸まで長い距離にわたってさかのぼるという条件が備わります。
ここで淡水と海水がまじりあって発生する汽水は、化学的にも物理学的にも独特な環境をかたちづくり、
淡水域とも海水域とも異なった独特な生態系を形成する源となります。
しかし、こうした汽水域は河川河口域への堰や港湾の建設が日本各地で進められたことで、
希少性を有する環境となってしまっています。

しかし……津波に遭って、津谷川の河口と海岸は自然に引き戻されかけています。
小泉地区に住む方や縁のある方が、この状況をそのままにおきながら地域再生を図りたいと望んでいます。
自然の川と海、津波と地震が生じさせた津谷川両岸の湿地の群 *宅地や水田等への補償を要します
そして津波に破壊された防潮堤、河川護岸、
JR気仙沼線の鉄道高架橋 *JR東日本社の資産であり同社の権利の尊重が最優先されるべきことを明記いたします
自然の岩塊等々をそのままにして、これら野生の自然と震災遺構との対比が、
この地の風景を体験する人々に自然災害に対する人間のあり方を考えることをうながす、
そのような土地に「小泉」はなるのではないでしょうか。

さらに、ここには希少な川と湿地の群からなる汽水域が、中生代に起源を持つ三陸の大地の一部の上にあります。
これらの条件をあわせて、小泉地区は「地球を学ぶジオパーク(Geopark)」認定を受け、
未来の子孫が自然と折り合いをつけながら心身健やかに暮らしていけるための土地とされていくことが、
さまざまな意味で有効なのではないかとの結論を得ました。
それを「(ジオパークとしての)小泉川汽水域公園」と仮に名づけてみています。

三陸ジオパーク推進協議会:
http://sanriku-geo.com/
*同協議会には気仙沼市も参加していますが、小泉地区は現在まで候補地に選定されていません。
 今後、この件で話し合う機会を、地区より市へ相談をしてもうけていただければと思います。


7日の会には、「小泉Coolな親父の会」会員をはじめとする当地区の方々や、
近隣も含む一体でボランティア活動に携わる方々など、20人の参加者がありました。
その全員が、この試案に賛同の意を表してくださいました。
私としては、本案が(全員の方々に、ではないものの)地区の方々に承認いただけたことを受けて、
地区、および地域の方々の知見(地理、生物、歴史、民俗、信仰、文化など)を取り入れながら、
具体的な土地利用形態の検討を進め、急ぎマスタープラン草案を作成したい意向を持っています。

今回提示した試案の概要は、以下に掲載するスライド画像にてご覧ください。
なお、演題の英語訳にご協力をいただいた大塚博子氏と、
日頃から視覚伝達デザインとタイポグラフィについて教えていただいている木村雅彦氏へ
本稿の最後に感謝の意を表します。
ありがとうございました。












日本地理学会 津波被災マップ: http://map311.ecom-plat.jp/map/map/?mid=40

小泉地区 明日を考える会: http://www.saiseikoizumi.com/


1/50,000 土地分類基本調査(表層地質図)宮城県


*著者は写真のホテルを含む南三陸シーサイドパレスの土地所有権等について一切情報を持たずに本稿を執筆しました(以下同じ)。



*私は当地区における防災集団移転促進事業に際した詳細を知りませんが、個々の方々への補償の確認を要することを明記しておきます。



本ブログ「広村堤防視察」参照  http://shunsukehirose.blogspot.jp/2013/04/20121104.html

本ブログ「北方遊水池の設計過程と現在」参照  http://shunsukehirose.blogspot.jp/2013/04/blog-post.html



いわき地域環境科学会: http://www.essid.org/


植本俊介氏のブログに詳しい記載があります。 http://blog.goo.ne.jp/uemot/e/52999ece8729c577b8c30125963a7cad

本ブログ「風景資本論 Landscape as Capital」参照  http://shunsukehirose.blogspot.jp/2013/04/landscape-as-capital.html


西条八束、奥田節夫『河川感潮域』名古屋大学出版会、1996年:  http://www.unp.or.jp/ISBN/ISBN4-8158-0293-9.html

高橋 裕『川と国土の危機』岩波書店、2012年  http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/43/2/4313870.html




*私は当地区における防災集団移転促進事業に際した詳細を知りませんが、個々の方々への補償の確認を要することを明記しておきます。
日本ジオパークネットワーク: http://www.geopark.jp/









*私は当地区における防災集団移転促進事業に際した詳細を知りませんが、個々の方々への補償の確認を要することを明記しておきます。




コアマモ (Zostera japonica)

ハマヒルガオ (Calystegia soldanella)

ヤブツバキ (Camellia japonica)

クロモジ (Lindera umbellata)

夏緑林/aestilignosa

ニリンソウ (Anemone flaccida)

マガキ属 (Crassostrea)

クロベンケイガ二 (Holometopus dehaani)

Helice tridens hole

ヌマガレイ (Platichthys stellatus)、イシガレイ (Kareius bicoloratus)、クサフグ (Takifugu niphobles)

オオハム (Gavia arctica)




*JR東日本社の資産に対する権利の尊重がまず求められることを特記しておきます。

Internationale Bauausstellung Emscher Park - Brief English Info: http://www.iba-emscherpark.de/pageID_2507086.html


*JR東日本社の資産に対する権利の尊重がまず求められることを特記しておきます。

Stiftung Insel Hombroich/Insel Hombroich Foundation: http://www.inselhombroich.de/




参考文献: オットー リリエンタール (Otto Lilienthal)『鳥の飛翔』(田中豊助、原田幾馬訳、東海大学出版会、2006年 *原著刊行は1889年)

たつがねMTB大会: http://www12.plala.or.jp/tatsuganemtb/



*改めまして、JR東日本社には一切の確認を行えておりません。著者なりの「地域的公益性追求」にもとづく考えをここに示したのみです。

*JR東日本社には一切の確認を行わず、著者なりの「地域的公益性追求」にもとづく考えをここに示しました。

*地権者や資産所有者の方々に不快感を与えるような表現がありましたら、すみやかに訂正や削除等の対応をいたします。
提案発表時の様子。阿部正人氏撮影