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| 写真1 百目鬼川をきれいにする会の活動風景。がっから橋上流側から下流側を見る。2021/12/05 廣瀬俊介撮影 |
はじめに
私が住む栃木県益子町の中心部に、百目鬼川 (どうめきがわ) という川が流れています。利根川水系の二次支川に当たり (益子町内で一次支川、小貝川に合流) 、一級河川に指定されています。上の写真は、2021年12月5日に「百目鬼川をきれいにする会」に参加した際、がっから橋 (益子町道176号) の上流側から写しました。普段の水量は、このように人が危険なく立ち入れる程度です。
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| 写真2 百目鬼川の平時の状況を確認する。百目鬼橋から上流側を見る。2021/06/06 廣瀬俊介撮影 |
2021年6月6日に、百目鬼橋から上流側を見て写した写真です (左手の道路は町道175号) 。平時には、穏やかに水が流れる百目鬼川ですが、増水時には様相が一変します。
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| 写真3 洪水警報発令時の百目鬼川の状況。百目鬼橋から上流側を見る。2021/07/12 廣瀬俊介撮影 |
2021年7月12日18:32、同日16:56から18:33にかけて発令された洪水警報が解除される1分前に撮影した写真です。この日、益子町では人的被害はありませんでしたが、住家被害として2棟で床下浸水があったと報告されています (被害箇所について筆者は確認していません) 。
出典: 栃木県|令和3 (2021) 年7月12日大雨による被害について (第2報・最終報) https://x.gd/acpTk
こうした百目鬼川に面した低地の環境条件、具体的には地形・地質と、これらに関係した災害の想定について要約をしたものが、この記事です。内容は、いくつかの法律に則って国土交通省、栃木県、益子町が検討し公開する洪水浸水想定区域図や地域防災計画、その根拠とされる国土地理院 (国土交通省) 、地質調査総合センター (国立研究開発法人 産業技術総合研究所) などの調査成果に基づきます。
なお、どうしたら防災・減災が図れるか、筆者なりに考えてみたこともあります。それについては、「筆者所感」と明記して参考に書き添えました。以下、地形、地質、気候変動の影響、およびこれらの環境条件から考える公共施設整備の留意点の順に、説明をしていきます。
1. 地形から考えられること
栃木県は、一級河川百目鬼川の洪水浸水想定区域 (想定最大規模) と浸水継続時間について、水防法第14条の1に基づき、公表をしています (図1) 。
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図1 利根川水系百目鬼川放水路 洪水浸水想定区域図 (部分) (廣瀬改変 2026) |
出典: 栃木県|利根川水系百目鬼川放水路 洪水浸水想定区域図
https://www.pref.tochigi.lg.jp/h06/town/kasen/kaishu/documents/t72-3doumekihousuiro.pdf
デジタル庁|e-GOV|水防法 https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000193#Mp-Ch_3
これを受けて、また水防法第15条に基づき、益子町は防災マップを作成し、公表を行っています。
出典: 益子町|防災マップ (ハザードマップ ) https://www.town.mashiko.lg.jp/sp/page/page001030.html
同|分割図3 https://www.town.mashiko.lg.jp/data/doc/1626431385_doc_126_2.pdf
これらの図において、益子町役場周辺土地区画整理事業区域内にかつて設定された図書館旧建設候補地の想定水深は0.5~3.0 m、想定浸水継続時間は12時間~24時間 (1日間) 未満とされます。参考までに、浸水深0.5 mは建物1階床上浸水相当、3.0 mは建物2階床面浸水相当 (国土交通省) となります。
出典: 国土交通省|関東地方整備局|江戸川河川事務所|河川防災情報
https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_pro/risk_map.html
また、益子町地域防災計画資料編27頁「危険区域」の「重要水防箇所」に、百目鬼川沿川の延長1,100 mの区間が含まれます。同計画は、災害対策基本法第42条及び益子町防災会議条例第2条の規定に基づき、益子町における防災対策について益子町防災会議が定めるものです。
出典: 益子町|地域防災計画 https://www.town.mashiko.lg.jp/page/page004152.html
百目鬼川に面した低地は、「氾濫平野」または氾濫原、河川低地という地形に分類されます
(図2) 。
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図2 治水地形分類図。緑色に彩色された範囲が氾濫平野、橙色が段丘面、薄茶色が山地となる。 |
出典: 国土地理院|地理院地図|治水地形分類図 (廣瀬改変 2026)
国土地理院は、治水目的でつくる「治水地形図の内容」として、氾濫平野に関して「堤防決壊・越流による洪水氾濫の他、内水氾濫も起きやすく、標高の低いところでは高潮に対しても危険度が高いといえます。また、軟弱な地盤の地域では地下水の汲上げによる地盤沈下や、地震動による液状化被害が発生することがあります」と説明をしています。
出典: 国土地理院|治水地形分類図の内容|氾濫平野 https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/bousaichiri41051.html
このように氾濫平野において水害や地震に対する警戒が欠かせない根本的な理由として、そもそもが「過去の洪水によってつくられた平野」であるという氾濫平野の地形発達史が挙げられます。
出典: 国土地理院|山から海へ 川がつくる地形 https://www.gsi.go.jp/CHIRIKYOUIKU/kawa_1-4-2.html
(筆者所感)
益子町防災マップを見ると、百目鬼川に限らず主要な河川に沿う氾濫平野が広い範囲で洪水浸水想定区域とされ、丘陵と山地で土砂災害警戒区域、同特別警戒区域、および山地災害危険地区が数多指定され、ため池の老朽化に伴う決壊の想定も記されるなど、さまざまな災害の危険性が確認できます。ただし、これらの災害は、河川に集まる降水を一度受ける流域全体 (図3、4)
での森林保全 (適正な利用・管理を含む) や農地保全によって気候変動緩和・適応、水源涵養、雨水流出抑制を図り、治山・治水に結びつけるなどの生態系サービス (調整サービス) を向上することで、合わせて対処していける可能性があります。
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| 図3 百目鬼川流域と周辺の立体地図 |
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| 図4 百目鬼川流域図 |
こうした考えは、2025年9月29日付で、町より回覧のあった文書「益子町ランドスケープ計画について」に対して、任意団体「里山循環ネットワーク」(意見とりまとめ代表者: 廣瀬) として提出した意見書でも述べています。
出典: 環境省|生物多様性と生態系サービス
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/service.html
国土地理院|地理院地図/地理院地図3D (廣瀬改変 2026) https://maps.gsi.go.jp
2. 地質について考え合わせてみてわかること
百目鬼川に面した氾濫平野の地質は、谷底平野・河川堆積物といいます。これらは、約1万1700万年前から現在にかけて (新生代第四紀完新世) 、主に山地、丘陵での岩塊の風化や河川の侵食から生じた砂礫が河川に運搬され、堆積されてきているものです (図5) 。
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図5 地質図。水色の範囲が谷底平野・河川堆積物、薄緑色の範囲が段丘堆積物となる。 |
出典: 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター|地質図Navi
https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#15,36.46366,140.09660
同|地質図Navi|凡例|堆積岩|H_sad、Q31_std (第四紀後期更新世。12万6千万年~7万年前)
https://gbank.gsj.jp/seamless/v2/legendSub.html?group=1
このように砂や石が積もった堆積物の層の下には、基岩と呼ばれる岩盤があります。しかし、地震が起きた時には基岩の上で堆積物が動き、次の問題が起こります。「沖積層のような軟弱地層中には多くの波が詰め込まれて重なり合い、地震動が増幅されます」。「沖積層」は、氾濫平野の地層、堆積物を指します。前述の国土地理院「治水地形図の内容」で説明のあった液状化も、こうした地震動の増幅に関係して発生します。
出典: 国立研究開発法人 防災科学技術研究所|自然災害情報室|8. 地盤強振動
https://dil.bosai.go.jp/workshop/03kouza_yosoku/08kyoushin.html
3. 気候変動の影響を考慮に入れる
ここまで見てきたように、氾濫平野はその地形、地質から、水害と地震に対して警戒が必要な土地と考えられています。近年では、このことに加えて、災害の激甚化・頻発化を前提として防災・減災に備える必要が生じました。
なお、最新の考え方では、氾濫平野に形成される湿地 (水田地帯を含む) は、「自然を活用した解決策 (NbS: Nature based Solutions) 」、「生態系を基盤とした防災・減災 (Eco-DRR: Ecosystem-based Disaster Risk Reduction) 」のために有望視されています。
出典: 内閣府|令和5年度版 防災白書|特集1 第2章 第1節 自然災害の激甚化・頻発化等
https://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/r05/honbun/t1_2s_01_00.html
環境省|自然を活用した解決策 (NbS:
Nature based Solutions)
https://www.env.go.jp/nature/biodiversity/nbs.html
生物多様性センター (環境省 自然環境局) |生態系を基盤とした防災・減災 (Eco-DRR) の基礎情報
https://www.biodic.go.jp/Eco-DRR/index.html
4. 氾濫平野の環境条件から公共施設整備の留意点を考える
国土交通省は、「災害に強い官公庁施設づくりガイドライン」で、基本的に災害が生じる可能性の低い敷地を選定する必要があるとしています。これは、公費を支出して整備、運営し、不特定多数の利用者が見込まれる公共施設全般にも当てはまると考えられます。
このようなことから、百目鬼川に面した氾濫平野は、その地形、地質、および気候変動の影響といった環境条件から災害の生じる可能性が低くはなく、公共施設の敷地として不向きであるとすることは妥当といえます。
出典: 国土交通省|災害に強い官公庁施設づくりガイドライン https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000056.html
(筆者所感)
土地区画整理事業において、治水面の強化策として宅盤を嵩上げしても、その体積分水位が上がり、浸水深は増す可能性が残ります。また、周辺や下流側 (小貝川下流側を含む) に影響が及ぶ可能性も否めません。「益子町地域防災計画」第2章第6節「風水害に強いまちづくり」の51頁にある「土地区画整理事業等の面的整備事業の推進による防災まちづくり」は、道路の線形整理や幅員拡幅が火災への対応や地震時の避難に有効となりますが、上記の環境条件から水害に対して効果をもつとは考えにくい面があります。
前述の流域全体での森林保全や農地保全による気候変動緩和・適応、水源涵養、雨水流出抑制、治山・治水などの生態系サービス (調整サービス) 向上と、百目鬼川の土地区画整理事業区域に接する区間での河道拡幅による河積の拡大、洪水調節池の整備 (かつて水田が治水面でも役立ったことに学んで) などを、合わせて検討するべきではないでしょうか。
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出典: 益子町|益子町地域防災計画 https://www.town.mashiko.lg.jp/page/page004152.html
以上の内容をPDFにまとめたものを、研究者情報を集約、公開するウェブサイトresearchmapの資料公開ページに載せました。必要とされる方は、自由にダウンロードしてご覧ください。
参照: researchmap|廣瀬俊介|資料公開|百目鬼川に面した低地の地形・地質とこれらに関係した災害の想定について
https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/258009/74f5d383bcdbb7b5de2c391ed10016bd?frame_id=509516







