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"GIG FOR GAZA 2025"のチケット完売を伝えるグラフィックアート。ポール・ウェラーのFacebook投稿より |
仕事が人生のすべてではありませんし、自分が職業とするデザインが表現活動であるとは考えていないのですが、美術大学出身でアートや音楽を身近に感じているため、ついそれらに関した批評や当事者の発言などから、ならばデザインでは…と考える癖がついてしまっています。デザイン批評やデザイナーの発言において、社会や政治に本質的に言及している例をほとんど見ないことから、そうなっているのかもしれません (「社会」という言葉はよく使われていると思いますが、市場と混同されていることが多いように思います) 。
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参照: 東北風景ノート|『失われた創造力へ—ブルーノ・ムナーリ、アキッレ・カスティリオーニ、エンツォ・マーリの言葉』を読んで
https://shunsukehirose.blogspot.com/2024/08/thoughts-on-reading-towards-lost.html
「求められるまま純粋に制作活動に打ち込むことが、時世によっては戦争協力にもなりうるとしたら、危うさを覚える」。これは、長崎市の平和祈念像を手掛けた彫刻家北村西望が「戦時体制の中で戦意高揚の一端を担」ったことを指しています。
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戦争との距離感|2018/8/8 長崎新聞
https://nordot.app/399718985140388961
このことはデザインにも当てはまるし、問題となる対象は戦争だけではないと考えています。
パレスチナ支持を言明して活動するミュージシャンのフェスティヴァル出演を検閲しようという英国での動きに対して、同国のギタリスト、ジョニー・マーは次のように表明しました。
「弾圧は、芸術的表現を恐れる。私は、不正義に反対し、思いやりと平等を広め、声なき者に声を与えるために自身のプラットフォームを使う全てのミュージシャンを尊敬する」
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Johnny Marr becomes latest to support Kneecap and calls for a “free Palestine”|2025/06/16 Far Out
Magazine
https://x.gd/qTczw
彼の態度の示し方もさることながら、「弾圧は、芸術的表現を恐れる」という言葉の冴えには驚かされました。
1948年4月9日、当時英国の委任統治領であったパレスチナのデイル・ヤシーン村をユダヤ人武装組織が襲撃し、少なくとも100人 (国連の記録より) が殺害されます。ここから、70万人のパレスチナ人が「イスラエル建国を目指すユダヤ人武装組織によって家を追われたり、避難したりした」「ナクバ=大惨事」が始まったのだそうです。この時「殺害されたパレスチナ人は1万5000人以上、破壊された町や村は531に上る」(パレスチナ自治政府統計) とのことです。
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パレスチナ人大虐殺「ナクバ」の生存者、世代を越えて語り継ぐ記憶|2024/05/17 CNN
https://www.cnn.co.jp/usa/35219014.html/k10014806081000.html
虐殺は、複数の方法を併用して続けられています。
「この配給システムは、食料がなく飢えるか、わずかな食料のために命を危険にさらすかの二者択一を人びとに迫るものだ。人道援助に見せかけた虐殺であり、今すぐ解体しなければならない」
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ガザ: 「援助に見せかけた虐殺」—イスラエルと米国による食料配給システムの解体と封鎖の解除を|2025/06/30 国境なき医師団
https://www.msf.or.jp/news/press/detail/pse20250630nt.html
「食料がなく飢えるか」とありますが、そうした状態も準備されてきていました。以下は、その一例に関した研究報告です。
「過去17ヶ月間、私たちはガザ地区全域の衛星画像を分析し、地域全体の農業破壊の規模を定量化してきました。私たちの新たに発表された研究は、この破壊の広範な範囲だけでなく、その発生速度が前例のない速さである可能性も明らかにしています」
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Evaluating war-induced damage to agricultural land in the Gaza Strip since October
2023 using PlanetScope and SkySat imagery
https://doi.org/10.1016/j.srs.2025.100199
※本研究に関しては、私が6月12日にFacebookへ投稿した記事の中でも簡単に紹介をしています。
https://www.facebook.com/hirose.shunsuke/posts/pfbid036toHYSFGP5psdkZh1yYTd1Gnn8HgHNQpnV7UMjRVjRrEaW2y9RXMSgrrpJDWSZaXl
このような中、現在、国連加盟193カ国中147カ国がパレスチナ国家を承認している上に、9月の国連総会でフランスがG7で初めてパレスチナを国家承認すると表明し、英国、カナダが国家承認を行なう予定を発表しています。
一方、イスラエルはこう反応しています。
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イスラエル極右閣僚、パレスチナ国家承認に対抗 入植地拡大し「何も残さない」|2025/08/15 AFPBB
https://www.afpbb.com/articles/-/3593474
同日報じられたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の以下の発言には、驚き呆れると共に、これまでにも増して強い怒りが込み上げてきました。
「これはパレスチナ人を『追い出す』計画ではなく、『脱出を認める』計画だと強調。『パレスチナ人のことが心配だ、パレスチナ人を助けたいというのなら、自分たちが門戸を開け』」
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ガザ住民をアフリカへ イスラエル、受け入れめぐり複数カ国と協議|2025/08/15 CNN
https://www.cnn.co.jp/world/35236714.html
国際政治・社会・経済の主流的情勢は、本当に野蛮になりました。日本の政治・行政・経済にも、ここまでではないとしても、これに通じるような蛮行とそのことへの追及を躱すための言葉の言い換え、論点のすり替えが広がっていると感じます。
そのような中で上記の長崎新聞の記事は書かれ、ジョニー・マーの短く強い言葉は発せられています。イスラエルが引き起こす問題や自国内の諸問題に対抗して活動する、決して少なくない数の人々が各国にいて、日本にもいます。こうした人々の思想と行動に私も学び、連帯したいと思います。
この投稿に添えた画像は、英国のミュージシャン、ポール・ウェラーが昨年に引き続き企画するガザのためのギグのアートワークです。同じく英国のミュージシャンであり、アーティストであるマッシヴ・アタックのロバート・デル・ナジャが、手がけています。
ギグのチケットは、すでに完売しました。以下は、ウェラーがXへのポストで公表した昨年の寄付総額と使途です。
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「Gig For Gaza は、人命を救う人道的活動を支援するために11万5,000 ポンド (GBP。現在の外国為替レートで日本円に換算して約2,248万3,025 円に相当) を集めた。この信じられない額の寄付金は、ガザで切望されている水、食料、テント、衣類、医療用品など生きるために必須の物資の提供に役立てられる。共演者をはじめ、このイベントの運営に携わったすべての人々に心から感謝する」。
https://twitter.com/paulwellerHQ/status/1868636810047582278
私は、パレスチナの国家承認を勧める国際社会の動きやウェラーの行動を支持します。ただし、現地の状況はきわめて深刻です。
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ガザで集団飢餓が拡大、住民が「どんどん衰弱」と人道団体が警告|2025/07/24 BBC
https://www.bbc.com/japanese/articles/c2k1lkddj9zo
ジョニー・マーは、「不正義に反対し、思いやりと平等を広め、声なき者に声を与えるために自身のプラットフォームを使う全てのミュージシャンを尊敬する」と発言していますが、影響力には大きな差があるとしても、私たちにもSNSプラットフォームを使うことはできます。
また、首相官邸や各省庁にインターネットで直接意見を送ることもできます。私も、昨日首相官邸と外務省にパレスチナの国家承認と即時停戦、即刻の物資供給支援の実現への働きかけを求める意見を提出しました (毎週2回、決まった時間帯にこれらの機関へ意見を送るアピール行動があり、できる範囲でそれに参加しています) 。
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首相官邸|ご意見募集
https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken_ssl.html
外務省|御意見・御感想
https://www.mofa.go.jp/mofaj/comment/index.html
日本政府にパレスチナの国家承認を求める声明への賛同者が、募られてもいます。9月10日午前8:30の時点で、39,046名の方々が賛同されています。
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このオンライン署名に賛同をお願いします! 「世界につづけ パレスチナ国家承認」
https://x.gd/LRdi0
この問題に限らず、私たちにできることは、もっと他にもあると思います。
追記
現在、44ヶ国からの人々が数十隻の船に乗り、パレスチナ自治区ガザへ支援物資を届けようとするグローバル・スムード船団 (Global SumudFlotilla) の活動も進行中です。
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グレタさんら、支援船団で再びガザへ「イスラエルの違法な封鎖破る」|2025/08/12 AFPBB
News
https://www.afpbb.com/articles/-/3593079
この活動に参加するスウェーデンの気候活動家グレタ・トゥーンベリは、こう語っているそうです。「環境や気候をケアすることと人間をケアすることとを人々が切り離して考えているのは、私にとっては不思議なことです」。
「私たちが立ち上がっているのは、あらゆる人間にとっての正義、持続可能性、そして解放のためです。社会正義なくして、気候正義はありえません」。
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何もしないことは「選択肢ではない」: ガザへ向かう船上のグレタ・トゥーンベリ|2025/06/03 旅する気候ジャーナル
船と風
http://ship-and-wind.com/2025/06/04/thunberg-aboard-gaza-flotilla/
表現活動や、環境も人間もケアすることを社会的不正義の克服に結びつける、まるで日本国憲法第97条にある「人類の多年にわたる自由獲得の努力」の創造的展開を見ているかのようなこれらの人々の思想、発言、行動にならい、私も自分のライフワークの中でそうした実践をしていきたいと思います。
少なくとも、不正義に気がつけるように学び続けることが必要ですし、それに気がつけたなら「そこに不正義がある」と明示することが大切であると考えます。そうでなければ、不正義を隠してしまうからです。何もしなければ「中立」なのではなく、これでは不正義の側を利してしまいます。
戦争や虐殺といった大きな問題にだけ声を上げるのでは、足りないとも思っています。身近にある差別や搾取は、人の心性や社会構造の問題を介して、戦争や虐殺と地続きの関係にあると考えるようになったためです。
私も、自身のプラットフォームについては、このように使い続けます。