日本景観生態学会学術大会発表スライド
Presentation-slides of the 2020 General Meeting of the Japan Association for Landscape Ecology
千葉県松戸市矢切地区で進む大型物流拠点計画から、歴史ある、そして現代においては新たにさまざまな環境便益を人間にもたらすことになった面積約100 haの耕地を守ろうとする方々がいます。
この方々からの依頼を受けて、耕地ひいては地区が持つ環境価値、人間の安全保障に対する貢献を検討する研究奉仕活動を2019年秋から始めました。
その結果の一つを日本景観生態学会第30回大会で発表しましたので、市民と市に利用いただけるよう発表要旨とスライドショーを公開します。
研究計画に助言いただいた鎌田磨人・徳島大学教授,鳥類調査の方法と結果の検討について協力いただいた日本野鳥の会栃木県支部の遠藤孝一氏,調査と議論に協力いただいた矢切の耕地を未来につなげる会の方々に深謝いたします。
以下、発表要旨本文とスライドを載せます。
目的
環境自治をめざす上で、市民科学は重要である。市民による鳥類調査を内容とする松戸市地域環境調査事業は、市民科学の普及に注力した地方自治の好例と目せる。本研究は、同事業を事例とした市民科学の発展とこれに基づく環境自治のあり方の探究を目的とする。
背景
矢切地区は千葉県北西部の松戸市に位置し、江戸川左岸に接する低地上に「矢切の耕地」 (面積約100 ha) を擁する。低地に面した台地斜面の樹林は、特別緑地保全地区に指定される。
当地では、2018年より民間事業として耕地の約15 haを取得し物流センターを建設する計画が進み、対して市民団体「矢切の耕地を未来につなげる会」発足などの動きが起きている。
鳥類調査をもとにした矢切地区の環境の自然度の検討方法
地域環境調査を含む既存資料の勘合と踏査をもとに、矢切地区の環境の自然度を簡易に検討する。さらに、観察された鳥類各種が一般的に必要とする生息環境の矢切地区における分布状況を確認し、当地区の環境がこれらの鳥類の定着を支える条件について考査する。
検討結果
地域環境調査により、当地区で平成30年度に確認された鳥類は64種であった。このうち、環境指標 (日本鳥類保護連盟) に指定された鳥類は28種で、合計点81、環境度B (81点以上) となった。環境度B以上は市内で3地区あった。また、21種は「千葉県レッドリスト 2019年改訂版」で保護生物とされ、同リストに指定された鳥類 (116種) の約18.1 %を占めた。
検討結果の考査
上記の結果から、矢切地区の環境の自然度は、首都圏に位置する都市域の一部としては比較的高いと見なせる。鳥類各種に必要な生息環境の単位として、当地区には河川、河川敷、草地、畑地、湿地、水田、住宅地、樹林周辺、樹林の9類型があり、江戸川から耕地、斜面林、台地へ連続することは、その一理由と考えられる。
考察・展望: 市民科学に基づく環境自治をめざして
市民による環境調査の精度と可能性の検証は、市民科学の発展に結びつく。ただし、市民が「住まい周辺の環境状況を自ら調査」し、「同じ目標を持って地域独自の環境づくりを始める」ことの志向から市の環境計画に位置づけられた本調査に基づく「地域独自の環境づくり」の実現手法は未策定で、今後はその開発が市と市民、市民科学を支える研究者に期待される。
*発表要旨のPDFが、researchmapよりダウンロード可能です。