2019/03/27

2019年日本地理学会春季学術大会発表資料「ハンセン病経験者の生活史に学ぶ持続的な生活環境の形成: 国立療養所松丘保養園の歴史環境の地域における社会的価値の予備的評価を例として」 Formation of sustainable living environment based on the life history of ex-leprosy patients: In case of preliminary evalution of social value of historical environment of the National Sanatorium Matsuoka Hoyoen, in Aomori City, Aomori Prefecture



2019/03/20
日本地理学会春季学術大会発表スライド
Presentation-slides of the 2019 Sprong General Meeting of the Association of Japanese Geographers


 
 この研究は、松丘保養園入所者の方々が園の敷地を「緑の森」として残し「地域貢献を」と望むことの意義についてじっくり向き合って考えてみたいと私が考え、入所者自治会長をはじめとする5人の方々の協力を得て始めました。
  
ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」前文の冒頭には、国の隔離政策がハンセン病の患者であった人々等に対して人権上の制限を行い、地域社会で平穏に生活することを妨げ、差別を生じさせてきたことへの反省、陳謝の念に基づき同法が制定されたことが明記されています。同法の基本理念に関した第三条では、入所者の「生活環境が地域社会から孤立することなく、安心して豊かな生活を営むことができるように配慮されなければならない」とし、第十二条 (良好な生活環境の確保のための措置等) では「国立ハンセン病療養所の土地、建物、設備等を地方公共団体又は地域住民等の利用に供する等必要な措置を講ずることができる」と規定しています。

 国立療養所松丘保養園は、2018年に社会交流会館を開設し、同法第十八条 (第四章 名誉の回復及び死没者の追悼) 「国は (中略) ハンセン病及びハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発その他必要な措置を講ずる」の重視の上に入所者と地域住民の交流を図っています。発表者は、同園の歴史環境とその形成史 (ハンセン病経験者の生活史が大きな割合を占める) もまたこの社会交流事業の継続と展開に生かし得る可能性があると考え、本研究において検討、考察を試みました。
 

 ここでは、その研究内容をよりくわしく説明するためにまず大会発表要旨全文を引き写し、次いで発表スライド全点を掲載します。なお、関連リンクを各スライドに添えました。



I 研究の背景と目的

 わが国のハンセン病隔離政策は1907年に始められ、現在は、全国14の療養所に約1,450人の入所者がいる。そのほとんどは治癒しているが高齢で (平均年齢85歳、2018年4月1日現在) 1)、療養所への入所を続けている。
 1909年創立の国立療養所松丘保養園では、入所者69人 (すべて治癒。201911日現在) の平均年齢は86.0歳である。そのような中で、入所者がつくる松丘保養園入所者自治会は、園の敷地を「緑の森」として残し「地域貢献を」と構想している2)。2018年には社会交流会館が開かれ、入所者を中心とした園と地域との交流がめざされている。
 本研究は、同園の歴史環境、とりわけそれをハンセン病経験者が生活を通して形成してきた点に着目し、地域におけるその社会的価値の評価を予備的に試みることを目的として行う。また、自治会の構想についても併せて考察する。


II 調査地

 松丘保養園は、青森市中心部から西へ約4kmJR新青森駅から約1.5km離れた、八甲田山系からのびる丘陵に連なる台地の南東向き斜面に立地する。敷地面積は237,966m2で、その約3割が樹林であり、向かい合う三内霊園および両敷地の間の谷地につくられたため池と合わせて、周囲が宅地化された中で多様性のある生態環境が保たれている。


III 関連法規・計画等

 関連法規に「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律 (2008)」、関連計画に「青森市都市計画マスタープラン (1999)」「青森市地域防災計画 (2017改訂) 」などがある。


IV 方法

 20164月より地域環境条件調査、20174月より同園職員と入所者への聞き取り調査を行ってきた。双方の結果を総合的に考察し同園の歴史環境の社会的価値を評価する。


V 中間結論

 敷地は、沖館川集水域の北縁に接して面積約7haの樹林を擁し、湧水が存する。生物多様性保全、雨水の地下浸透とこれに伴う水源涵養、流出抑制 (洪水抑止) 、炭素固定、水と共に流出が抑えられた有機物の微生物分解と土壌生成、生物生産などに加えて同園における薬木研究から薬用資源が備えられ、豊かな生態系サーヴィスの供給源と目せる。
 こうした生態環境は、隔離政策により園内で食料や燃料が生産されながら保たれてきた。そこから、ハンセン病経験者の生活史に持続的な生活環境の形成を学べる可能性が見出だせる。それは、入所者と地域の交流の中心におけようし、同園が災害時に青森市の福祉避難所となり、当地の環境が地震・火災時の一時避難に向くことからも、園内で水や食料、薬用植物等を自給できる条件の保持は望ましい。
 また、青森市内に同園と三内霊園、合浦公園等の近代造園がまとまって残ることも歴史文化的価値を有する。


VI 展望

 研究成果と自治会による同園の将来構想を基に、同園による施設整備計画とも関係を整理して、歴史環境継承を地域社会の持続に生かす環境整備計画の作成を提案する。住民と職員を主体とする計画作成を、必要があれば主発表者らが研究を継続して支援することも視野に入れている。


注 

1) 国立感染症研究所ウェブサイト https://www.niid.go.jp/niid/ja/leprosy-m/1841-lrc/1707-expert.html

2) 甲田の裾編集委員会 (2012) : 甲田の裾 672 (1)2-5.








出典: 総務省電子政府|ハンセン病問題の解決の促進に関する法律



出典: 国立感染症研究所ウェブサイト  https://www.niid.go.jp/niid/ja/leprosy-m/1841-lrc/1707-expert.html






青森市ウェブサイト|青森市都市計画マスタープラン 


        |青森市地域防災計画





出典: 総務省電子政府|ハンセン病問題の解決の促進に関する法律














出典: 境野健太郎・友清貴和・高田光雄「『らい予防法』下のハンセン病療養所における施設計画の変遷に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』78 (683) 、日本建築学会、2013年  https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/78/683/78_45/_article/-char/ja/

出典: 青森市ウェブサイト|災害時の避難所  http://www.city.aomori.aomori.jp/kikikanri/anzen-kinkyu/bousai-syoubou/saigai-hinanjo/01.html



出典: 青森市ウェブサイト|青森市都市計画マスタープラン 


            |青森市立地適正化計画
https://www.city.aomori.aomori.jp/toshi-seisaku/shiseijouhou/matidukuri/toshikeikaku/rittitekiseika.html


参照: 青森県|青森県史デジタルアーカイブスシステム  http://www2.i-repository.net/contents/kenshi-front/



出典: 青森県遺跡地図  https://www.pref.aomori.lg.jp/bunka/education/isekitizu.html



参照: 特定非営利活動 (NPO) 法人 ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会ウェブサイト  https://www.hansen-wh.jp/













2019/03/23

川と人間の関係を通して風土と生活世界の形成を考える A consideration on formation of milieu and ‘lifeworld’ (Lebenswelt) thorough relationship between people and rivers



2019/03/19
いい川づくり研修会・中部地方 発表スライド
Presentation-slides of the research meeting for disaster recovery efforts and nature oriented river works in the Chubu region
 

吉村伸一先生 (株式会社吉村伸一流域計画室) より推薦を受けて、
いい川づくり研修会・中部地方「災害復旧と多自然川づくり」で
「川と人間の関係を通して風土と生活世界の形成を考える」と題して講座を担当しました。

その内容は、次のように構成しました

1. はじめに − 講座の目的
2. 川辺の風景に目を凝らす − 右支夏井川を例に
3. 風土と生活世界
4. 風土形成の一環となる河川計画の前提
5. 問題提起 − 川をより広く見る視点を持つこと

これは、河川計画へ改正河川法にある通り
沿川の生活者の声を反映させるための実践例の提示をとの主催者 (特定非営利法人全国水環境交流会) の意向と、
河川を河川だけで見ずより広い空間範囲からとらえる考え方と方法の説明をとの
吉村先生の意向に合わせて応えようと作成したものです。
なお、研修会の全体は、国土交通省「美しい山河を守る災害復旧基本方針」 のよりよい運用を主題として企画されていました。

これも、同様の課題をお持ちの方々のご参考にしていただければと考えて、公開いたします。 
また、当日の配布冊子に収録された論考のレジュメが下記ウェブサイトよりダウンロードできるようにしています。

researchmap 廣瀬俊介|資料公開
https://researchmap.jp/mu0zo7moy-2148896/#_2148896

追記

右支夏井川で30年に渡り河川管理と地域振興に力を尽してこられた高橋宗彦氏、
同河川の計画作成に際して協働した岸田明義氏、山本嘉昭氏、
および伊達市・諏訪野団地の雨水貯留浸透施設設計を手がけられた高萩幸一氏へ 
本発表内容の作成に関して謝意を表します。
ありがとうございました
。 


参考文献/ References

廣重剛史『意味としての自然』晃洋書房、2018年、206頁
http://www.koyoshobo.co.jp/book/b352905.html
ステファン・コイファー、アントニー・チェメロ『現象学入門』田中彰吾、宮原克典訳、勁草書房、2018年、312頁
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b371301.html
ヤーコプ・フォン・ユクスキュル、ゲオルク・クリサート『生物から見た世界』日高敏隆、羽田節子訳、岩波書店、2005年、170頁

https://www.iwanami.co.jp/book/b247066.html