建築、デザインの質や現代における万博の是非を問う以前に、埋立地・夢州はこのように使ってよい土地であったのか? 疑問が残ります。この記事を書きながら、そのことについて考えてみたいと思います。なお、情報は足りていません。また、地震、津波への備えなどに関しては、検討できていないことをはじめにお断りしておきます。
夢洲全景 (大阪府咲洲庁舎より撮影) <黄犬太郎 - 投稿者自身による著作物, CC SA-BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40787888 > |
面積約390 haの夢州の埋め立ては、浚渫土、建設残土、廃棄物の焼却残渣などの処分場として1977年に免許を得て、1990年代に着工されました。以降、「都市開発のために急いで埋め立てるのではなく、できるだけ長い期間にわたって処分場として継続されることを目指していた。ところが、万博開催に間に合わせるために土砂を購入して埋立を急いだ」とのことです。
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夏原由博 (2024) 2025大阪・関西万博の環境アセスメント—ほど遠いネイチャーポジティブ. 日本の科学者59 (6): 31-36頁
https://doi.org/10.60233/jjsci.59.6_31
次に挙げる論文では、東南海地震で発生する災害廃棄物は大阪府下で1200万 t、その収容に必要な公共空間は380 haと想定されることから、「現役の廃棄物処分場」として2027年までの利用を予定していた夢州を「手つかずのまま残しておくのも合理的な選択」であったと指摘されています。
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桜田照雄 (2019) 大阪夢洲カジノの経済・環境問題. 日本の科学者 54 (10): 10-17頁
https://doi.org/10.60233/jjsci.54.10_10
ここから、私の考えを書きます。以下の記事にある大阪市議の発言は、大阪府、大阪市がどう無関係であると発表しようが、夢州開発をめぐる事実と符号しているのではないでしょうか。「IR」は、「統合型リゾート/Integrated Resort」の略称で、夢州の万博会場隣接地がその敷地とされ、カジノを含みます。私は、2025大阪・関西万博開催は、そうした意図の有無にかかわらず、事実、「現役の廃棄物処理場」であり災害廃棄物の収容に利用も可能な埋立地・夢州を、カジノ開業を主目的として開発することの「正当化」を補強した、と考えます。
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「大阪維新の会所属の大阪市議は、『 (中略) 万博はIRのためのインフラ整備をやるためのものですからね。地盤が悪くてIRがダメなんてなれば、もう維新は終わりです。嘘つきと言われかねない』」
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吉村洋文知事が絶賛する「5mで1億円」の大阪万博リング 大半は接着剤で貼り合わせた集成材|2023/12/28 AERA DIGITAL
https://dot.asahi.com/articles/-/209963?page=1
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2025年4月時点でのOSM夢洲地図。オープンデータベースライセンス (ODbL) に基づいて利用 |
カジノ解禁については、ギャンブル依存症等の弊害を招くことが懸念されています。
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「IR区域整備計画の認定とカジノの免許に関する一連の手続をもって、国及び実施地方公共団体は、カジノによる弊害というこれまでには存在しなかった新たな危険を設定することになる」
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権 奇法 (2018) IR (カジノ) 整備法の制定 (平成30年7月27日法律第80号). 自治総研 44 (482): 1-31頁
https://doi.org/10.34559/jichisoken.44.482_1
論文「大阪夢洲カジノの経済・環境問題」には、「万博開催に先立ってカジノ開業を実現するのが、大阪府・市IR推進局の方針なので、万博への誘客インフラは、カジノへの誘客インフラを意味する」と書かれています。この開催順は逆になりましたが、「万博への誘客インフラ」は、そのまま「カジノへの誘客インフラ」に転用できます。
「企業によるカジノへの資金提供では、『公序良俗に反する』との株主代表訴訟の懸念があるが、万博を口実とすれば、そのような懸念は解消できる」と、同論文は続けられます。「万博を口実とすれば」問題が何も無いかのように見せることができるということでしょう。そして、資金が足りず事業が休止していた、大阪メトロ中央線延伸の再開を図る理由も立つということではないでしょうか。
このように経緯を確認していくと、万博に関連する建築、デザインの質や、現代における万博の是非を問う以前に、埋立地・夢州の利用の仕方は本当にこれでよかったのだろうか? と、疑問に思われてくるわけです。
別の観点からも、考えてみます。WWF (世界自然保護基金) ジャパンは、大阪・関西万博開幕1週間前に、以下の概説を添えて環境NGO 6団体による共同宣言を発表しています。
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「『いのち輝く未来社会のデザイン』をテーマに開催される万博ですが、残念ながら重要視されなかった『いのち』があります。万博会場となった夢洲に形成されていた湿地環境とそこに生息していた野生生物です。WWFでは複数の環境NGOと連携して、博覧会協会ならびに大阪港湾局に、要望と意見交換を行ってきましたが、NGO側の要望はほぼ実現されませんでした」
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大阪・関西万博における自然環境保全上の課題について|2025/04/09 WWF ジャパン
https://www.wwf.or.jp/activities/activity/5942.html
「要望」は、夢州を浚渫土、建設残土、廃棄物の焼却残渣などの処分場として用いない前提で出されたものと考えます。そうであれば、それが最良の土地利用に当たるのかはすぐに判断がつきませんが、生物多様性保全が生態系サービスの保持に結びつくことから、その公益性をまた別の観点から評価できることになります。
論文「2025大阪・関西万博の環境アセスメント」には、「博覧会協会による環境影響評価書では動物の生態をまったく無視している」と書かれています。例えば、シギ・チドリ類の予測結果として「『会場外の夢洲1区の内水面を利用する』とあるが、これはエアレーターが稼働する曝気処理池であり、水深は深い。これまでにシギ・チドリ類は利用しておらず、今後利用するという根拠はない」などとしています。こうしたことを「環境影響評価を専門とする大企業が書くことは企業倫理に反する」と、厳しく批判してもいます。
このように初めに示したのとは別の観点からも、埋立地・夢州はこのように使ってよい土地であったのか? との疑問を抱かざるを得ません。これらの問題は、現代における万博の是非を問うことや、建築、ランドスケープデザインなどの質を問うこと、そして会場でのメタンガス発生の問題 (下記参照) を論じること以前に、現実的に、理性的に、検討する必要があったと考えています。
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万博会場のメタンガス 爆発現場以外でも5か所 対策発表|2024/06/24 NHK
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20240624/2000085426.html
万博会場内でメタンガス検知、引火すれば爆発の恐れ…一時来場者の立ち入り規制|2025/04/07 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/expo2025/20250407-OYT1T50064/
注: 添付した写真「夢洲全景 (大阪府咲洲庁舎より撮影) 」の著作権者は、次の通りです。<黄犬太郎 - 投稿者自身による著作物, CC SA-BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=40787888 による>。また、図「2025年4月時点でのOSM夢洲地図」は、オープンデータベースライセンス (ODbL) に基づいて利用しています。