私は、益子町と八溝山地周辺で農地と環境・景観の保全、地域の自然資本の保持や経済循環の仕組みづくり、関係人口創出などを自発的に行う任意団体でつくる 「里山循環ネットワーク」 (発起人: 簑田理香) のアドバイザーを、西山未真・宇都宮大学教授 (農業経済学) と務めています。
2024年6月21日(金) 、 同ネットワークは、参加する各団体の活動状況を報告し、地方公共団体と民間組織とでどのような協働が行えるか考え始めるために意見を交し合う会を、益子町役場で開きました。
以下、当日の配付資料に掲載されたネットワーク立ち上げの趣旨を引用します。
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益子町には、里山が農業とともに窯業にも利用されてきた歴史があります。その結果として、町そのものが里地・里山といった状態が続いてきました。しかし、薪炭が他の燃料に置き換えられ、近年は原発事故による放射性物質の拡散の影響も受けて、里山の多くが放置されています。さらに、他の地域と同様に農業人口の減少、後継者不足の問題が深刻で、里地での耕作放棄が進んでいます。かつて拡大造林政策によって植えられたスギやヒノキも、木材輸入が自由化されてのち放置されるようになりました。竹林の放置も、めだちます。
こうした状況から、さまざまな課題が見つかります。ただでさえ食料自給率が低い日本の「健康的な食の供給」、人家に近いところにも藪が増えてイノシシが身を潜められるようになったことなどから発生件数が増えたと考えられる獣害、利用の見込みのない山林を持て余す高齢者から用地購入をしての太陽光発電所や産業廃棄物最終処分場の建設などへの対応が求められます。
その一方で、個人や、任意の集まりで、土地にあるものに目を向け、その資源を循環的に持続的に活用し、生活や社会の中で賢く活かしていく取り組みを進めている仲間がいます。皆さんは主に「非農家」であり、これまで農業/農村が担ってきた「多面的機能」を引き受けていると言える側面もあると思います。
そのような実践者の皆さんを繋ぎ、「情報」や抱えている「課題」、そして「知恵と技術」を共有する場を (ネットワークとして) つくり、必要な時に協力体制が組めるようなつながりの創出を期して呼び掛けたものが、里山循環ネットワークです。現在は、ネット上にページを作成し、それぞれの団体の紹介を行い、また、LINEグループを作り日頃の情報共有などを行っています。
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当日は、ネットワークに参加する6つの団体から活動概要を報告した後、アドバイザーからコメントを述べ、最後にこれらをもとに町職員の方々と廣田茂十郎町長より感想や意見を伺い、意見や情報を交換しました。
私は、以下の3点についてスライド20点を用いて述べました。
1つ目に、里地・里山の利用・管理が気候危機への対応に結びつくこと (樹木や農地土壌の炭素吸収による) 。
2つ目に、里地・里山の利用・管理が生物多様性の保全ひいては生態系サービスの保持に結びつくこと。
3つ目に、そのような利用・管理から実現される健全度の高い農的景観こそが益子町における理想の景観、ランドスケープの基盤またはそのものといえるのではないかということ。
内容には不足がありますが、第一にネットワークのメンバーとの今後の議論の材料とすることを目的として、ここにスライドショーを掲載します。ネットワーク外の方がたにも、何か少しでもご参考としていただけるところがあるようでしたら幸いです。
参照: 環境省自然環境局|里地里山の保全・活用 https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html (2024-06-27 参照) |
出典: 田村説三「里山の植生の歴史的変遷と人のかかわり」『国際景観生態学日本支部会報』2 (5)、1995年、11-12頁 |
参照: 環境省自然環境局|自然の恵みの価値を計る|生物多様性と生態系サービス https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/service.html (2024-06-27 参照) |
出典: 公益社団法人東京生薬協会|新常用和漢薬集|ゲンノショウコ http://www.tokyo-shoyaku.jp/f_wakan/wakan2.php?id=72 (2024-06-27 参照) |
出典: 恩田裕一編『人工林荒廃と水・土砂流出の実態』岩波書店、2008年、54-55頁 https://www.iwanami.co.jp/book/b265615.html (2024-06-29 参照) |
出典: アレキサンダー・J・ホーン, チャールス・R・ゴールドマン『陸水学』手塚泰彦訳、京都大学学術出版会、1999年、総638頁 https://www.kyoto-up.or.jp/book.php?id=658 (2024-06-29 参照) |
次のスライドに出典を記載した文献に、関東平野に広がる黒ボク土はリンを豊富に含有し、しかし作物はそれをそのままでは摂取できないため、リンの施肥が必要になるとあります。
出展: 高木真由・向井真耶・吉田智弘・佐々木真優・水上知佳・北山兼弘「森林生態系への火山灰加入のリン施肥効果」『森林立地』64 (2)、2022年、65-76頁 doi: https://doi.org/10.18922/jjfe.64.2_65 |
出典: 長野県|農業試験場|環境にやさしい農業技術 https://www.pref.nagano.lg.jp/nogyoshiken/naiyo/kankyo/enviroment.html (2024-06-29 参照) |
Credit: Butastur indicus [photo by Alpsdake, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36069459], Parus minor [photo by Laitche, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=53756352] |