2020/10/18

都市に残る自然的環境の公共利益評価: 千葉県松戸市の矢切耕地を例として Assessing the public benefits of the remaining natural urban environment : In case of the land use on arable land at Yagiri area and surrounding natural environment, in Matsudo City, Chiba Prefecture



2020/10/18

日本地理学会2020年秋季学術大会発表スライド   

Presentation-slides of the 2020 Autumn General Meeting of the Association of Japanese Geographers




 千葉県松戸市矢切地区で進む大型物流拠点計画から、歴史ある、そして現代においては新たにさまざまな環境便益を人間にもたらすことになった面積約100 haの耕地を守ろうとする方々がいます。


 この方々からの依頼を受けて、耕地ひいては地区が持つ環境価値、人間の安全保障に対する貢献を検討する研究奉仕活動を2019年秋から始めました。

 その結果の一つを2020年9月20日に日本景観生態学会第30回大会で発表しました。これに続いて、10月18日に日本地理学会でも主題を違えて研究発表を行いました。こちらは、同地区で農業を営む唐澤圭輔氏と共同研究を行ったものです。同氏とも話し合い、先の
日本景観生態学会大会発表と同じく、市民と市に利用いただけるよう発表要旨とスライドショーを公開します。 

 ここでも調査と議論に協力いただいた矢切の耕地を未来につなげる会の方々に、深謝いたします。

 以下、発表要旨本文とスライドを載せます。



I 研究の背景と目的

 近年、都市農業振興基本法制定 (2015) や農地を緑地政策体系に位置づけた都市緑地法改正 (2017) があり、これらに基づいて都市農業の多様な機能を保持するための各種計画が実行されている。しかし、その中には土地開発に関した地方公共団体の行政方針決定が上記の法の基本理念にそぐわず、生態系サーヴィス保持等の公共的利益確保を含んだ両法律の理念が具現化されず、外部不経済の発生から市民が不利益を被る可能性が推定される例が見当たる。

 本研究は、上記の立法と地方行政の齟齬の検証を動機として立案した。ただし、事例とした耕地は後述するように周辺と合わせて都市に残る自然的環境と見なせ、ここではその公共的利益評価を目的として設定した。

 

II 調査地

 矢切耕地は、千葉県北西部の松戸市(人口493,532人1))に所在し、江戸川をはさんで東京都葛飾区柴又に面した矢切低地に位置する。面積は約100 haで、「矢切ねぎ」2) が130年以上3) にわたって生産されてきた歴史を有する。また、矢切低地が接する下総台地西縁の一部との境界の斜面林1.9 haは、矢切特別緑地保全地区として指定されている。

 なお、松戸市は農業振興地域制度を用いず4) 、市街化調整区域指定により農地転用を制限してきたが、2017年11月に矢切耕地での民間物流拠点 (15 ha) 整備構想が表面化している5) 。

 

III 関連法規・計画等

 関連法規に前述した二つの法や都市計画法 (2020改正) 、景観法 (2018改正) 、関連計画に「松戸市都市農業振興計画 (2019) 」「松戸市緑の基本計画改訂版 (2009) 」「松戸市都市計画マスタープラン (1999) 」「松戸市景観計画 (2011) 」「松戸市地域防災計画 (2014修正) 」などがある。

 

IV 方法

 都市農業振興基本法第3条 (基本理念) に書かれた「農産物の供給の機能」を含む都市農業の「多様な機能」を矢切耕地がどう持つか検討し、公共的利益を評価する。この中の都市防災については、都市緑地法第5条第1項にある「災害の防止」等と関連づけられるグリーンインフラストラクチャーとして機能し得る面に着目する。

 

V 考察

 本研究より、矢切耕地とその土地利用が、江戸川、矢切低地、斜面林、台地の空間的連続・変化の中で「多様な機能」を発揮することが確認された。ことに、矢切低地の微地形と土壌、地下水流動に対応した土地利用上の積極的な活用や非積極的な遊休、矢切斜面林の特別緑地保全地区指定といった人間活動の結果生じる環境の諸様態と生物相の相関から、自然的環境が都市に残り “Urban natural capital (都市の自然資本) ”となるためのいくつかの条件が示唆された。

 

VI 展望

 今後は、これらの情報の市民間における共有を図る上に、都市に残る自然的環境、都市農業の公共的利益の確保を基本とした議論が導かれる必要がある。

 

 

注 

1) 2020年6月1日現在。松戸市人口統計データ「常住人口」より

2) JAとうかつ中央により2007年に登録商標が取得される  http://www.ja-toukatsuchuou.or.jp/nogyojoho.html

3) 渡邊夏帆・大江靖雄 2015.松戸市矢切ねぎ生産者の農産物高品質化への意欲と生活満足度.食と緑の科学 69: 47-53.

4) 松戸市 2019.松戸市都市農業振興計画.

5) 青柳正悟・古賀大己 2018/4/9.(千葉) 松戸・矢切に物流拠点構想−揺れる農家、市は困惑.朝日新聞デジタル  https://www.asahi.com/articles/ASL4L5175L4LUDCB00Q.html

 

 *発表要旨のPDFが、researchmapよりダウンロード可能です。

 

 

 








































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


2020/09/20

市民科学に基づく環境自治の探究: 松戸市矢切地区における鳥類調査を例として  An exploration of environmental autonomy based on citizen science: A case study of bird surveys in Yagiri area of Matsudo City

 

2020/09/20

日本景観生態学会学術大会発表スライド
Presentation-slides of the 2020 General Meeting of the Japan Association for Landscape Ecology


 千葉県松戸市矢切地区で進む大型物流拠点計画から、歴史ある、そして現代においては新たにさまざまな環境便益を人間にもたらすことになった面積約100 haの耕地を守ろうとする方々がいます。

 この方々からの依頼を受けて、耕地ひいては地区が持つ環境価値、人間の安全保障に対する貢献を検討する研究奉仕活動を2019年秋から始めました。

 その結果の一つを日本景観生態学会第30回大会で発表しましたので、市民と市に利用いただけるよう発表要旨とスライドショーを公開します。
 

 研究計画に助言いただいた鎌田磨人・徳島大学教授,鳥類調査の方法と結果の検討について協力いただいた日本野鳥の会栃木県支部の遠藤孝一氏,調査と議論に協力いただいた矢切の耕地を未来につなげる会の方々に深謝いたします。

 以下、発表要旨本文とスライドを載せます。



目的

 環境自治をめざす上で、市民科学は重要である。市民による鳥類調査を内容とする松戸市地域環境調査事業は、市民科学の普及に注力した地方自治の好例と目せる。本研究は、同事業を事例とした市民科学の発展とこれに基づく環境自治のあり方の探究を目的とする。

 

背景

 矢切地区は千葉県北西部の松戸市に位置し、江戸川左岸に接する低地上に「矢切の耕地」 (面積約100 ha) を擁する。低地に面した台地斜面の樹林は、特別緑地保全地区に指定される。
 当地では、2018年より民間事業として耕地の約15 haを取得し物流センターを建設する計画が進み、対して市民団体「矢切の耕地を未来につなげる会」発足などの動きが起きている。

鳥類調査をもとにした矢切地区の環境の自然度の検討方法

 地域環境調査を含む既存資料の勘合と踏査をもとに、矢切地区の環境の自然度を簡易に検討する。さらに、観察された鳥類各種が一般的に必要とする生息環境の矢切地区における分布状況を確認し、当地区の環境がこれらの鳥類の定着を支える条件について考査する。

 

検討結果

 地域環境調査により、当地区で平成30年度に確認された鳥類は64種であった。このうち、環境指標 (日本鳥類保護連盟) に指定された鳥類は28種で、合計点81、環境度B (81点以上) となった。環境度B以上は市内で3地区あった。また、21種は「千葉県レッドリスト 2019年改訂版」で保護生物とされ、同リストに指定された鳥類 (116種) の約18.1 %を占めた。

 

検討結果の考査

 上記の結果から、矢切地区の環境の自然度は、首都圏に位置する都市域の一部としては比較的高いと見なせる。鳥類各種に必要な生息環境の単位として、当地区には河川、河川敷、草地、畑地、湿地、水田、住宅地、樹林周辺、樹林の9類型があり、江戸川から耕地、斜面林、台地へ連続することは、その一理由と考えられる。

 

考察・展望: 市民科学に基づく環境自治をめざして
 市民による環境調査の精度と可能性の検証は、市民科学の発展に結びつく。ただし、市民が「住まい周辺の環境状況を自ら調査」し、「同じ目標を持って地域独自の環境づくりを始める」ことの志向から市の環境計画に位置づけられた本調査に基づく「地域独自の環境づくり」の実現手法は未策定で、今後はその開発が市と市民、市民科学を支える研究者に期待される。

 *発表要旨のPDFが、researchmapよりダウンロード可能です。